円安による食料・エネルギー価格高騰を受けた物価高などを背景に、賃上げ機運が高まっている。日本経済は、物価上昇を上回る賃上げを実現することで個人消費を拡大させ、企業の収益や設備投資を増やす経済の好循環につなげられるか正念場にある。27日投開票の衆院選では、与野党ともに最低賃金の大幅アップのほか、企業間取引で価格転嫁を促すことで、賃上げが遅れている中小企業を支援する政策などを打ち出している。

◇格差是正急ぐ

 連合の集計によると、2024年春闘の賃上げ率(加重平均)は全体で5.10%となり、33年ぶりの高水準を記録した。しかし、物価上昇を反映させた実質賃金は低迷を続けている。6月の統計で27カ月ぶりにプラス転換したものの、8月には再びマイナスへ転落するなど、不安定な状況が続いている。

 このため各党はさらなる賃上げを訴え、とりわけ中小対策に力を入れている。24年春闘では、労働組合員数300人未満の中小の賃上げ率が全体より低い4.45%にとどまった。連合が今月公表した25年春闘の基本構想では、全体は前年と同じ「5%以上」の要求としたが、中小組合については「6%以上」を掲げ、企業規模による格差是正を目指す方針を鮮明にした。

 消費拡大につなげるには、労働者の約7割を占める中小企業で働く人々の所得向上がカギを握る。各党は公約で、物価高対策に加え、人件費の原資を捻出できるようにするため価格転嫁をしやすい環境を整備すると表明した。

◇最低賃金引き上げアピール

 中でも各党がそろってアピールするのが、最低賃金の引き上げだ。石破茂首相は、これまでの自民党の目標を前倒しし、20年代に全国平均で時給1500円を目指すと明言。公明党も5年以内に達成させるとしたほか、立憲民主党は段階的な引き上げ、共産党は全国一律の制度を確立するとした。

 だが、この公約を実現しようとすると、毎年7.3%程度の引き上げが必要となる。中小企業を中心に経営への影響は大きく、日本商工会議所の小林健会頭は「(経済の)インフラを担っている人たちが(市場から)退出し、地方そのものが瓦解(がかい)してしまう」と懸念を示す。

 このほか、国民の所得を拡大するには、パート労働者が手取り収入の減少を避けて就労時間を抑える「年収の壁」の撤廃も課題となる。各党は公約で壁の撤廃を進めるとしているが、食品スーパー大手ライフコーポレーションの岩崎高治社長は、制度改革を伴わずに最低賃金だけが引き上げられれば「人手不足に一層の拍車が掛かる」と指摘する。ただ、万人が納得できる制度設計は難しく、実行力が問われそうだ。(了)

提供元・Business Journal

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