テレビ番組や動画サイトで「ドミノ倒し」を見ているとき、ドミノの倒れる速度にかなりバラつきがあることに気づいている人は多いでしょう。

これは単純に配置するドミノの間隔だけで決まっているようにも見えますが、その物理学的なメカニズムは想像より複雑です。

最近、カナダ・モントリオール理工科大学(Polytechnique Montreal:POLY)に所属するデイビッド・カンター氏ら研究チームは、ドミノ倒しのスピードを決める要素をシミュレーションで導き出しました。

その結果、摩擦やドミノ同士の間隔が大きく関係していると判明。

研究の詳細は、2022年6月22日付の科学誌『Physical Review Applied』に掲載されました。

目次
ドミノが「後方に滑る」動画がきっかけに
ドミノ倒しをスピードアップさせるのは「摩擦」と「間隔」

ドミノが「後方に滑る」動画がきっかけに

ドミノ倒しは子供でも楽しめる単純な遊びですが、メカニズムについては、まだ完全に解き明かされていません。

そこで科学者たちは、ドミノ倒しの現象を物理学的に説明しようとしてきました。

例えば、YouTubeで動画配信しているエンジニアのダスティン・サンドリン氏は、2017年にドミノ倒しの実験動画を公開しています。

その中では、ドミノの倒れ方が床の素材で変化すると報告されました。

ドミノの倒れる速度はどうやって決まるのか?
(画像=滑りやすい床でのドミノ倒し。ドミノが後方に滑っている / Credit:SmarterEveryDay(YouTube)_250,000 DOMINOES! – The American Domino Record – Smarter Every Day 178(2017)、『ナゾロジー』より引用)

滑りやすい(摩擦が小さい)床に並べたドミノは、滑りにくい床に並べたドミノに比べて、後ろに滑りながら倒れる傾向があったのです。

ドミノの倒れる速度はどうやって決まるのか?
(画像=滑りにくい床でのドミノ倒し。ドミノの位置はほとんど変わらない / Credit:SmarterEveryDay(YouTube)_250,000 DOMINOES! – The American Domino Record – Smarter Every Day 178(2017)、『ナゾロジー』より引用)

とはいえサンドリン氏の実験では、これらの要素が、ドミノ倒しのスピードにどのような影響を与えるか解明するには至りませんでした。

ところが最近になって、この動画に着目したデイビッド・カンター氏が、摩擦とドミノが倒れる速度の関係性を解明しようと考えました。

彼の研究チームは、200個のドミノを使ったシミュレーションを1210回行って、ドミノ倒しの物理学を追求したのです。

ドミノ倒しをスピードアップさせるのは「摩擦」と「間隔」

膨大なシミュレーションの結果、いくつかの要素がドミノ倒しをスピードアップさせると分かりました。

1つ目の要素は、ドミノ同士の摩擦です。

ドミノ倒しは、後ろのドミノが倒れて前のドミノにぶつかることで成立します。

このときに伝わるエネルギーは、ドミノ同士の摩擦によっていくらか失われてしまいます。

そのため表面が滑らかなドミノを使いドミノ同士の摩擦をなるべく減せば、ドミノ倒しのスピードがアップさせられると分かったのです。

2つ目の要素は、ドミノと床の摩擦です。

サンドリン氏の動画にあるように、ドミノと床の摩擦が小さいと、ドミノは倒れるときに後方に滑ってしまいます。

これにより、後ろのドミノが前のドミノの低い位置にぶつかるようになり、伝えるエネルギーが小さくなっていました。

ドミノの倒れる速度はどうやって決まるのか?
(画像=滑りにくい床だと、前方のドミノの高い位置にぶつかる。倒れ方も安定している / Credit:SmarterEveryDay(YouTube)_Dominoes – HARDCORE Mode – Smarter Every Day 182(2017)、『ナゾロジー』より引用)

このためざらざらの床にドミノを並べ、ドミノと床の摩擦を大きくすれば、ドミノが滑らずに安定して倒れるようになります。

これによりぶつかる位置も高くなり、より強いエネルギーが伝達されることで、ドミノ倒しをスピードアップさせられるのです。

3つ目の要素はドミノ同士の間隔です。

シミュレーションでは、1つ目と2つ目の要素を含めつつ、ドミノ同士の間隔を狭くするなら、ドミノ倒しを最速にできると分かりました。

ドミノの倒れる速度はどうやって決まるのか?
(画像=ドミノ同士の間隔が狭いと、摩擦要因と相互作用してスピードアップする / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

ドミノの間隔がドミノの厚さの半分のとき、「摩擦」がうまく作用し、スピードアップにつながるというのです。

今回の研究では、ドミノ同士の摩擦を小さくし、ドミノと床の摩擦は大きく、またドミノ同士の間隔を狭く並べるなら、ドミノ倒しがよりスピードアップすると分かりました。

ちなみに研究チームは、真逆のパターンも実験しています。

ドミノ同士の摩擦を大きくし、ドミノと床の摩擦は小さく、またドミノ同士の間隔を広く(間隔がドミノの厚さの3倍より広い)並べたのです。

ドミノの倒れる速度はどうやって決まるのか?
(画像=今回のシミュレーションで導きだ出された3つの要素を真逆にすると、ドミノ倒しは途中で止まる / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

その結果は、悲惨なものでした。

ドミノの倒れ方が不安定になり、自然に連鎖が止まってしまうこともあったのだとか。

ドミノが倒れるときに後方に大きく滑ってしまい、しかも前のドミノとの距離も遠いので、当てることができずにそこで連鎖が終わってしまいました。

今回の実験では、ドミノ倒しの速度に焦点を当て、関係するいくつかの要因を明らかできました。

とはいえ、他の科学者たちが指摘するように、「ドミノ倒しの物理的なメカニズムを明らかにするには、まだまだ多くの研究が必要」です。

シンプルで奥深いドミノ倒し。科学者たちの挑戦は今後もしばらく続きそうです。


参考文献

How fast a row of dominoes topples depends on friction

Friction Is Key in Domino Physics

元論文

Effects of Friction and Spacing on the Collaborative Behavior of Domino Toppling


提供元・ナゾロジー

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