これについては、単にイギリスが、ロシアに敵対的な政策をとっているが、イスラエルにはとっていない、ということ以上の意味はないと考える。
第一に、イスラエルのガザにおける国際人道法違反の度合いは甚大であり、それに関する明白な証拠も膨大だ。戦争犯罪(jus in bello)の甚大な違法性は、自衛権の有無(jus ad bellum)の議論によっては、消滅しない。ロシアの違法性事由と、イスラエルの違法性事由が違っている、という指摘は、イスラエルの行動の問題性の深刻さを何ら軽減しない。
第二に、仮にイスラエルに自衛権行使が許されるとして(10月7日のハマスのテロ攻撃に対する自衛権行使については、占領に対する抵抗勢力に自衛権が行使できるかという論点を含んでいる)、昨年10月以降のイスラエルの軍事行動は、自衛権行使の条件となる「必要性」と「均衡性」の原則から、大きく逸脱している。つまり軍事的必要性のない軍事攻撃を多々行い、目的に照らして全く不均衡な軍事手段を行使している。
これは自衛権行使の要件をめぐる「jus ad bellum」の領域におけるイスラエルの違法行動を明示しており、これに関する明白な証拠も膨大に存在する。
第三に、ロシアがウクライナに侵略行動をとっていることが問題だとすれば、イスラエルの占領政策は同じように問題である。侵略と占領のどちらも違法である。
つまり結論として、G7諸国大使が取った態度は、それらの国々自身の外交的立ち位置から生まれたことにすぎず、国際法規範から必然的に生まれたことだとは言えない。
日本にとってG7諸国との関係は重要だが、世界の諸国の圧倒的多数はイスラエルに批判的であり、その中には日本にとって非常に重要な国々が多々含まれる。長崎市が平和主義の信念を貫くことは、被爆の歴史も踏まえたうえでの平和主義を国是とする日本にとって、大きな意味を持つ。
政府は、長崎市の判断の妥当性を尊重したうえで、中東の和平のための努力を含めた外交措置を進めていくべきだろう。