今月、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.<スマイルアップ>)からマネジメント業務などを引き継いだSTARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテインメント、以下スタート社)の所属タレントの番組起用を再開すると発表したNHK。そのNHKが今月20日に放送した『NHKスペシャル ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』が議論を呼んでいる。ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏による性加害問題を特集したものだが、番組内ではスマイルアップの補償本部本部長が被害者の遺族に対し「心の底からお詫びができない」「それ(=謝罪)、東山(紀之社長)がするの?」「ちょっと僕は納得できない」などと発言する場面を放送。さらに遺族は、同社に補償を申し入れしたところ社内で「ジャニーズに反抗する本を出しているような人に、そんなお金なんか出せるか。金取る気か」という話になり、補償が支払われないことになったという経緯を証言。同社に反省の色が乏しいとの声が広まる事態となっている。

 ジャニー氏(2019年7月に死去)の性加害が社会的に大きな問題となったきっかけは、昨年3月に英国公共放送(BBC)が放送した特集番組だった。テレビ各局は当初、沈黙を続けていたが、被害を受けた元ジャニーズJr.の男性が日本外国特派員協会で会見を開いたことで、徐々にテレビでも報じられるようになり、同事務所に対する批判が拡大。同社は再発防止特別チーム(座長:林眞琴元検事総長)を立ち上げ、調査報告書を公表。藤島ジュリー景子氏は社長を退任し、東山紀之氏が社長に就任。同社は補償業務のみを行うスマイルアップに社名を変更し(将来的には廃業の予定)、所属タレントのマネジメントは新会社・スタート社に引き継がれることになった。

「僕、そのときのこと知らないんで」

 過去、ジャニー氏の問題をめぐっては元所属タレントの著書などで明かされ、1999~2000年にかけては「週刊文春」(文藝春秋)が大々的に特集記事を展開。これを名誉棄損だとした事務所側は、東京地裁に民事訴訟を起こしたものの、最高裁は04年2月、「(ジャニー氏の)セクハラについての記事の重要部分は真実と認定する」との判決を下したのだ(ジャニー氏が「合宿所で少年らに飲酒や喫煙をさせている」と報じた部分は名誉棄損が認められ、「文春」は計120万円の損害賠償の支払いを命じられた)。だが、この「文春」裁判の結果に対し、当時のテレビ、スポーツ紙など大手メディアは沈黙を貫き報道を自粛する一方、積極的にジャニーズ所属タレントを起用し続けたこともあり、世間的な認知は広まらなかった。

 そうした状況がなぜ作り上げられたのか、当時を知るテレビ局の元社員や元ジャニーズ事務所社員などの証言も交えてその背景を追ったのが、今回の『NHKスペシャル』だ。番組内ではジャニー氏による性加害の被害を受けていた初代ジャニーズの元メンバー、故・中谷良氏の姉がインタビュー取材に応じ、スマイルアップ補償本部本部長から電話で、冒頭の言葉に加えて以下のように言われるシーンも放送された。

「僕、そのときのこと知らないんで。じゃあ謝罪すればいいのかな、としか今ちょっと思えなくて」

「何で東山が(謝罪を)しなきゃいけないのか、僕、わかんないですよ。東山は別に加害者じゃないですからね」

 また、中谷氏の姉によれば、事務所に補償の申し入れをしたところ、中谷氏がジャニー氏の性加害を告発する書籍を出版したことを理由に補償を拒否されたといい、同社からは、社内で「ジャニーズに反抗する本を出しているような人に、そんなお金なんか出せるか」という話になったと説明を受けたと語っている。

「ジャニー氏と姉で元会長のメリー喜多川氏と関係が深かった東山氏が社長に就任することに当初は批判も強かったが、現在、東山氏は完全にタレント業を引退して、被害者に直接面会・謝罪をして回っており、その姿勢は評価されている。その一方で、この補償本部の責任者の言動を聞く限り、被害者とのやりとりの窓口としては不適任であり、このような人物を補償の責任者に据えておくのはスマイルアップ社にとっても良くない結果を招く恐れがある」(テレビ局関係者)