介護業界で広まるM&A

 介護施設の経営は厳しい。厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」によれば、介護施設・事業所の2022年度の平均収支差率(利益率)は介護サービス全体が2.4%であり、介護老人福祉施設はマイナス1.0%、介護老人保健施設はマイナス1.1%と赤字。介護事業者の倒産も増えている。東京商工リサーチの調べによれば、2024年上半期(1-6月)の介護事業者(老人福祉・介護事業)は前年同期比50.0%増の81件となっており、介護保険法が施行された2000年以降で最多となった。今後、同様の事例は増えていく可能性はあるのか。

 前出・大島氏はいう。

「M&Aは介護業界でも広がっています。利用者は増えているのに、施設は吸収合併・廃業になっている状況です。運営会社の資本力の問題や、市場での競争に勝ったものと負けたものの差が出た結果といえます。介護保険は準市場といわれ、個人事業主が参入しにくく、介護老人福祉施設などの一部の施設は設立できない決まりになっている一方、住宅型・有料老人ホームなどは比較的容易に営利企業も参入することができます。介護保険が導入され25年たった今、競争力や経営力の差が生じ、このような事態が生まれたといえます。

 今後も施設の統廃合は進んでいくと思います。経営面の深刻さは、利用者に跳ね返ってきます。介護報酬が、建築資材の高騰や土地代などの現状に合っていないという点も、経営的な課題といえます。それに加えて介護人材不足で通常の求人では人手を確保できず、紹介会社などを使うと余計な金銭的コストが発生するという悪循環が生じる点も課題の一つです」

 前出・結城氏はいう。

「『高齢者が増加しているから客はたくさんいる』と考え、居酒屋やレストランを始めるような感覚で介護事業に参入する事業者が増えていますが、福祉法人をうまく経営していくためには、福祉の実態や制度への理解、深刻な介護人材の不足のなかでの人材確保、そして福祉の精神が必要なため、安易な感覚で参入してもうまくいきません。そうした事業者の施設が行き詰まるケースが今後増えるのではないかと懸念されます」(10月15日付当サイト記事より)