天動説とは、宇宙の中心が地球であり、その周りを太陽含め他の惑星が回っているという主張であることはご存じだろう。紀元前から数々の思想家が唱えてきた中で、プトレマイオスやアリストテレスなどの主張もあり、1000年以上にわたって支持されてきた。

 だが、天動説を軸に計算されたユリウス暦において、星の位置の算出から1年に10日ほどのズレが生じるといった問題点がいくつか見られ、少しずつ天動説には綻びが見られるようになっていった。15~16世紀の大航海時代にはその揺らぎがますます顕著なものとなり、ついにコペルニクスによる天体観測により地動説が緻密な論証のもとで書物により刊行され、18世紀にはケプラーやニュートンの登場によってほぼ浸透するに至った。

 これが天動説から地動説への変容の大筋であることは、誰もが知るところだろう。この間、コペルニクスによる地動説がカトリックやプロテスタントなどのキリスト教から大反発を巻き起こし、ガリレオ・ガリレイはコペルニクスと共にその書物が禁書扱いされ、ジョルダーノ・ブルーノについては処刑にまで至ったほどである。

 実際は、紀元前より地動説を唱えた学者は存在していた。例えば、古代ギリシアのアリスタルコスは、地球が太陽の周りを回る天体の一つであると主張していた。しかし、天動説支持者があまりにも大多数を占めていた時代において地動説の存在感はほぼ忘れ去られてしまったのだ。

 では、地動説を異端と切り捨てたキリスト教は、いかなる理由によってそれを虚妄と断じたのか。その根拠は『聖書』にあると考えられている。聖書内には、実のところ明確に天動説を支持するような個所は存在しないものの、記述による解釈はいかにも天動説を連想させるものに富んでいた。

 例えば、天地創造において神はまず地を作り、そのあとに天を作ったというような記述が創世記から見て取れる。また、太陽が中空にとどまったというような記述もヨシュア記にある。天動説が支持され、そこからさらに普及していったのは、聖書に基づく天動説との解釈一致が大きく影響していたと言えるだろう。

 キリスト教における天動説の影響力は近年まで続いており、かつて異端と称されたガリレオやブルーノが名誉回復されたのは、実に20世紀に入ってからであった。

 だが、90年代当時に枢機卿であったベネディクト16世がガリレオ裁判における教会側の判断を支持する演説を行なったこと、さらに2008年にはローマ大学で「教会はガリレイより理性に忠実」と発言したことで公演中止になるなど、のちに謝罪に至ったものの天動説支持はまだ根深いものがあるようである。

“地球平面説”と共に浮上する「天動説」の復活!?地動説は悪魔崇拝的思想なのか
(画像=カミーユ・フラマリオンの版画(1888年)は平面上の大地の端まで到達して天蓋から顔を突き出している旅行者を描いている。 画像は「Wikipedia」より、『TOCANA』より 引用)

 また、近年ではこの天動説がにわかに支持者を増やしているのではないかとの見解もある。フラットアース、すなわち地球は球体ではなく平面であるという主張は、天動説のように昔は大々的に支持されたのちに否定されていったものである。ところが、2018年ごろの調査では、アメリカにおいて「地球が丸い」ことに疑問を抱く若者が、実に30%を超える割合で存在しているということで話題となった。

 このフラットアース説が、まさしく現代において天動説支持を再び広げている要因となっているのだ。こうした疑問は、突き詰めると「地球球体説は悪魔、悪魔崇拝者によって作り上げられたでっちあげである」という陰謀論にも繋がっており、その思想の根源は間違いなく聖書すなわちキリスト教的な発想に基づいている。

 キリスト教と天動説による地動説への反発は、様々な形で今後も尾を引いていく問題であると言えるだろう。

文=黒蠍けいすけ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

提供元・TOCANA

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