2011年の東京電力福島第1原発事故後、脱原発を目指した日本のエネルギー政策は、自民党政権下で一転して原発回帰にかじを切った。使用済み核燃料の保管など原発稼働に伴う課題が山積している一方、人工知能(AI)が普及すればデータ処理などで電力需要の急増が見込まれる。今回の衆院選で各党が掲げた公約も「ゼロ」から「最大限活用」まで是非が大きく分かれ、意見集約の難しさを浮き彫りにしている。
◇消えた「依存度低減」
自民党は21年の前回衆院選まで、公約に「可能な限り原発依存度を低減する」と明記してきた。しかし、22年の参院選で「最大限の活用」に転じ、昨年2月に運転期間の延長や凍結していた原発の建て替えといった方針を決定。今回の選挙公約も「脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」と訴える。
ロシアのウクライナ侵攻に伴い、世界のエネルギー価格は急騰した。ガソリン、電気代などの上昇が家計を圧迫し、資源を海外に頼る日本の立場の危うさを露呈した。国内の原発は一時、すべてが稼働を停止したが、原子力規制委員会の新規制基準に基づいて今月時点で12基が再稼働した。
しかも、電力需給を調整する電力広域的運営推進機関によると、AIの普及に伴って33年度にデータセンターなどの電力需要が23年度よりも最大で537万キロワット増える。原発およそ5基分の出力に相当する規模だ。こうした事態も見据え、経団連など経済3団体のトップは今月初めに石破茂首相と会談し、再稼働の加速などを求めた。
◇野党に温度差
野党のうち、原発利用に積極的な国民民主党や日本維新の会は既設原発の再稼働に加え、次世代型原発の開発も公約に盛り込んだ。
一方、立憲民主党は「原発の新増設は認めない」と明記した。旧民主党時代から掲げていた「原発ゼロ」について、野田佳彦代表は「一気に実現できるわけではない」と説明し、「最後は依存しない社会を目指す」と主張する。
このほか、共産党や社民党は「原発ゼロ」を打ち出し、太陽光や風力など再生可能エネルギーの活用を訴える。
日本は、原発から出る使用済み燃料の再利用を目指す「核燃料サイクル」を推進してきたが、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場は完成時期の延期が繰り返されている。再処理後に残る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場も決まらず、このまま稼働を続けることに疑問も投げ掛けられている。 (了)
提供元・Business Journal
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