ファーストインプレッションは「静かで速い」。絶妙のNISMOチューン
日産ノート・オーラNISMOがマイナーチェンジした。FFに加えてNISMO tuned e-POWER 4WDの新設定がニュースだ。空力性能を向上させたエクステリアの改良や、オプションのRECAROシートにパワーリクライニング機能を追加するなど商品力の強化も魅力だが、走りのポテンシャルを高めた4WDの登場は注目である。
待望の4WDは日産自慢の電動4WDシステム。だが、エクストレイルやARIYAとは異なり、e-4ORCEとは呼ばない。e-4ORCEは、前後2基のモーターとブレーキが協調回生するシステム。オーラNISMOは、回生ブレーキとフットブレーキが独立しているため、社内のルールで、e-POWER 4WDという呼び名になったという。
テストコースで試乗した第一印象は「静かで速い」だった。
4WDはNISMO専用チューン。発電用モーターやフロントモーター(136ps/300Nm)は標準モデルと変わらないが、トルク配分制御が見直された。リアモーターは標準の68ps/100Nmから、82ps/150Nmに大幅にアップしている。ECO/ノーマル/NISMOの3段階に切り替えられる走行モードも再設定され、ECOでも標準のスポーツと同等、NISMOを選ぶとアクセルで積極的にコントロールできるセッティングになった。タイヤの接地状況にもよるが、NISMOモードにすると最大で7割強リア駆動となる。
実際に乗ってみると、びっくりするくらい安心して活発に走れる。回り込んだコーナーでアクセルをほんの数㎜踏み込むだけで、2WDとの違いが顕著に伝わってくる。FFならアクセルを抜いてタックインぎみにして旋回姿勢を作る場面でも、パーシャルスロットルを意識して、一定量の姿勢変化にとどめると不思議とクルマが行きたい方向に向きを変えていってくれるのだ。ドライバーの意思にアクティブに応える魅力がこのクルマにはある。
4WDの強みを最も感じたのは、コーナーの立ち上がり時だった。クルマの旋回をイメージしてほしい。FFの場合、ステアリングによる操舵と前に行こうとする駆動力の両方をフロントタイヤ、中でも外輪が担う。仕事量が多いため、4本のタイヤのうちの1本に負担が集中しがちだ。NISMO tuned e-POWER 4WDは、リアの駆動力を高め、4輪をリアルタイムに緻密に制御。それぞれのタイヤが性能を最大限に発揮できるよう、クルマ側が制御してくれる。だからコーナリングの姿勢が安定し、優れたライントレース性を実現している。結果、コーナーの立ち上がり時に安心して加速を楽しめるのだ。今回はドライ路面での試乗だったが、ウェットやスノーなど低μ路面ならより効果が実感できるだろう。行われている制御は実に緻密だ。そこにこだわるからこそ、NISMOが技術屋集団として愛され続けているに違いない。
オーラNISMOは快適性もハイレベル。購入後の「お楽しみ」も待っている
車両重量は1390kg。FFと比較して110kg(大人2人分)重くなっている。サーキットで速さを追い求めると、状況によっては2WDのほうが速い場面もでてくるだろう。しかしコーナー立ち上がり加速は4WDに軍配が上がる。また重量増は、乗り心地の上質感向上に貢献しており、プラス方向に作用している印象を受けた。
NISMOはモノチューブ式リアショックアブソーバーを標準装備。4WDはリアサスペンションにメンバーが追加されている点も、乗り心地に影響しているかもしれない。走りが楽しいだけでなく、快適性も重視している点に、NISMOの懐の深さを感じた。
撮影中に細部を観察していると、独自のエアロファルムが強い存在感を放っていることを実感した。このクルマはまさに全方向でファインチューンされたツーリングカーである。
4WDの価格はFF比で約40万円高い347万3800円。これにコネクトナビ、プロパイロットなどのオプションを加えると40万円ほど高くなり、価格帯的には欧州車もライバルになる。オーラNISMOは電動スポーツという独自の個性を持ち、走りの刺激度は最高レベル。利便性のよさや1台でいろいろな用途に対応できることを考えれば、決して高くないように感じた。ただし性能面では不満はないが、リアブレーキがドラムなのは少し寂しい。
NISMOは、スポーツモデルが持つ性能を実際にカスタマーに実感してもらうため、NISMOドライビングアカデミーというスポーツドライビングレッスンを毎年開催している。全国のサーキットで行われるアカデミーはスーパーGTなどに参戦するNISMO契約レーシングドライバーの指導のもと、クルマについてより深く探求できる。オーラNISMOはGT-RやフェアレディZとともに、このレッスンに参加できる。スペシャルモデルとして購入後の楽しみの幅も広い。
【ライタープロフィール】
よこたこうじろう/大学時代に写真を学び、その後、2級整備士の資格も取得した異色のクルマフリーク。幼少期にレースゲーム「グランツーリスモ」でドライビングに開眼。カートを経て2024年はスーパーFJにも参戦。KYOJOでは、チームメカニックを務める