完璧な腹筋とは一体どんなものだろうか。それは腹直筋だけでなく前鋸筋もしっかりと発達した腹筋だろう。今の中高年の多くがトレーニングを始めた頃は、アーノルド・シュワルツェネッガーのような極太の上腕二頭筋や、厚みと幅のある胸筋を作りたいと夢見たものである。トレーニング開始当初から、前鋸筋を発達させたいなどと思っていた人などいなかったはずだ。ここでは前鋸筋とは何か?そしてその鍛え方を紹介する。

文:William Litz 翻訳:ゴンズプロダクション

勝利を引き寄せる前鋸筋の存在

バキバキに割れた腹筋の重要なカギ「前鋸筋」をつくる方法
(画像=『FITNESS LOVE』より 引用)

前鋸筋を英語では「セラタス」という。筋発達に目覚めたばかりの頃はよく分からなかったことも、だんだんこの世界にどっぷり浸かっていくにつれて、カーフの深部にあるヒラメ筋や大腿部前面の縫工筋、背中を構成する菱形筋、前腕の伸筋などに目がいくようになり、徐々にそういった部位の発達にまで関心を寄せるようになる。解剖図を見ると、目立ちはしないが、確実にそこにある筋肉に興味が湧き、その部位を何とか発達させたいと願うようになる。今回は、そんなマニアックな人たちのために、前鋸筋という筋肉部位に焦点を当ててみたい。



細かい部位に気を配る

ウエイトトレーニング人口が増え、体づくりに興味を持つ人たちが近年は目に見えて増加してきた。そのため、ボディビルやフィジークなどのコンテストを観戦すると、レベルの高い選手が増えたような印象を受ける。もはや腕が太いとか、胸の厚みがあるとか、腹筋のシックスパックが浮かび上がっているという程度では、コンテストで上位入賞することも難しくなってきた。そういった要素はどの選手も当たり前のように持ち合わせているからだ。そのため、甲乙つけがたい僅差での順位争いということになれば、勝敗を分けるのは細かい筋肉部位ということになってくる。
トレーニングや調整の過程では、細かい部分にはあまり目が行き届かないものである。しかし、そういう部分がきっちりと仕上げられていれば、他の部位の仕上がりも申し分がないということに他ならない。だから接戦になっている場合は細かい部分が審査されるのだ。細かい部分の仕上がり具合を見れば、どちらの選手がより大きな努力を注いで体づくりをしてきたのかを判断することができる。かっこいい雰囲気の身体づくりなら、いわゆる「ビーチマッスル」と言われる筋肉の発達だけ考えていればそれでいい。しかし、コンテストに出場し、さらに上位入賞を目指したいというのであれば、ビーチマッスルを鍛えるだけでは到底太刀打ちできない。
もちろん、ビーチマッスルを否定するつもりはない。たとえば、かっこいい体に不可欠なシックスパックの腹筋づくりはトレーニングだけでなく、食事にも気を配る必要がある。努力の末に彫り込まれた腹筋は、いかにも若々しくて健康的で、あふれるほどのエネルギーに満ちた人物に見える。誰もが憧れる身体とはそういうかっこいい体なのだ。ただ、本格的なボディビルダーは、そのレベルをはるかに超える体を目指していく。たとえば今回の主役である前鋸筋は、決して大きな筋肉ではないし、よほど絞れていないと表面には現れてこないような筋肉だ。見事な腹筋を作り上げ、さらに深く刻み込まれた立体的な前鋸筋があれば、それはもうかっこいい体のレベルを超えて、本格的なボディビルダーの証しといっても過言ではないだろう。



別名、ボクサーズマッスル

前鋸筋は扇形の輪郭を持つ筋肉で、まるで指を並べたような形をしている。肋骨の1~8番目の表面に始点を持ち、肩甲骨の内側縁まで伸びている。扇が体側部を前から後ろに向かって包むように張り付いているので、肋骨を引き上げたり、肩甲骨を前外方に引く働きが備わっている。前鋸筋はボクサーズマッスルと呼ばれることもあり、その理由は厳しい減量を経てリングに上がったボクサーがパンチを繰り出すときに浮かび上がる筋肉だからだ。いかにもマニアックな筋肉だが、この部位を鍛えるために有効な種目があるのでこの機会にぜひマスターしよう。



前鋸筋を鍛える種目

プッシュアップ

前鋸筋は小さな筋肉だが、その位置から察してわかるとおり、様々な種目で間接的な刺激を受けている。例えばベンチプレスや頭上にウエイトを持ち上げるショルダープレスなど、肩甲骨や肋骨が動く動作では、前鋸筋は程度の差こそあれ、刺激を受けているのだ。しかし、前鋸筋にダイレクトな刺激を与えるならプッシュアップ(腕立て伏せ)に勝る種目はない。プッシュアップで前鋸筋をダイレクトに刺激するなら、ぜひ手幅を広くしたワイドハンドで行うのがベストだ。手幅を広げれば広げるほど前鋸筋への刺激が増すので、肩に違和感がない範囲で、自分にとって広い手幅を探してみよう。


プッシュアッププラス

ワイドハンドで行うプッシュアップのバリエーションのひとつに、プッシュアッププラスがある。ミネソタ大学の実験によると、プッシュアッププラスは、通常のプッシュアップよりも前鋸筋の参加率が50%も多いそうだ。やり方はこうだ。まずは肩幅より少し広めの手幅で床に手をつき、プッシュアップのスタートポジションをとる。肘を曲げながら床面に体を下ろしたら、トップまで体を押し上げる。ここまでは通常のプッシュアップと同じで、次のレップを開始する前に追加して行う動作がある。 体を押し上げたトップポジションで、平らに保たれている背中を丸めるようにするのだ。このとき、腕の長さは変わらないので、可動域はとても狭いのだが、しっかり力を入れて床を下方に押し込むように意識しよう。背中を丸めたら、再び背中を平らに戻して、次のレップを開始する。プッシュアップに背中を丸める動作を加えるだけで、前鋸筋への刺激が強まる。動作中は体幹部を十分に緊張させ、前鋸筋への意識を忘れないようにしよう。ちなみに、このプッシュアッププラスでは、床についた手のひらを軽く外に向けるようにすると前鋸筋の筋活性率が上昇することが実験でわかっている。肩に違和感がない範囲で試してみるといいだろう。


ハンギング・セラタス・サイドクランチ

腹筋のためのハンギング・レッグレイズと同じように、肩幅よりも広めの手幅でチンニングバーにぶら下がる。ハンギング・レッグレイズなら骨盤を丸めながら脚を体の正面に持ち上げるのだが、ここでは脚を左右に引き上げるようにする。こうすることで前鋸筋に強い刺激を得ることができる。この種目では、できるだけ膝を曲げず、動作をコントロールしながら行おう。トップでは一旦停止し、前鋸筋を意識してギュッと収縮させてから、脚をスタート地点に戻す。動作をしっかりコントロールしないと、惰性で振り子が揺れているだけ動きになってしまうので注意が必要だ。勢いをつけてスイングするのもダメだ。ぶら下がり続けることができないなら、ストラップを使って握力の弱さを補おう。セットあたり10~20レップを目標にする。慣れるまでは動作が難しく感じられるかもしれないが、集中して何度か繰り返すうちに、前鋸筋への刺激が確実に感じられるようになるはずだ。動作をマスターするまでは正確なフォームに集中し、レップ数にこだわる必要はない。動作をマスターすることができれば、確実に前鋸筋を刺激することができ、前鋸筋が強くなっていけば、目標のレップ数に到達できるはずだ。


バンデッド・チェストプレス/パンチ

バンドを使った種目もひとつ紹介しておきたい。用意したバンドをパワーラックや固定された家具などを利用して、肩の高さの位置に取り付ける。パワーラック(または家具)に背を向けて立ち、後方からバンドを引っ張って両手にバンドのハンドルをそれぞれ握る。パンチを繰り出すように構え、バンドの張力に抵抗するようにして片腕ずつ前に押し出す。ボクシングのパンチを繰り出すような動作だ。右手のパンチを出すときは、右半身も前に出しながら行う。この際、左半身を引いたりせずに残したままにする。左パンチを出すときは左半身も前に出す。こうして胴部をひねりながら左右のパンチを繰り返す。前鋸筋への収縮を強めるには、対角線上にパンチを出すのがいい。つまり、右パンチは左方向に向けて行い、このとき、左側の前鋸筋の収縮を意識する。左パンチは右方向に向けて行い、このとき右側の前鋸筋の収縮を意識する。ここでのパンチング動作はテンポよく行ってもいいし、ゆっくりした動作で、前鋸筋の緊張を抜かないようにして行ってもかまわない。肝心なことは胴をひねり、前鋸筋をしっかり収縮させることだ。前鋸筋は先にも述べたとおり、ボクサーズマッスルとも呼ばれる筋肉だ。力強くパンチングをし、前鋸筋をギュッと収縮させることを意識しよう。2分間を1セットにして行ってみるといいだろう。


ボクシングの練習

アスリートの中には、ボクサーが行うようなトレーニングを有酸素運動として組み込んでいる人も多い。ボクシングが目的ではないのだが、サンドバッグを打ち込むような練習はとてもハードな有酸素運動になる。さらに言えば、前鋸筋も鍛えられるのでまさに一石二鳥だ。トレッドミルやバイクなどの有酸素運動も悪くはないが、心肺機能を鍛えることにプラスして何かを得たいなら、ぜひパンチングの練習で前鋸筋を鍛えるのもいいだろう。


スタンディング・セラタス・サイドクランチ

ハイプーリーマシンが使える環境なら、この種目もおすすめだ。
①D字ハンドルを取り付けたケーブルマシンに向かい合うようにして立ち、一歩だけ左側に移動する。こうすると、体の右側がマシンの正面と向き合うはずだ。
②右手にD字ハンドルを握り、上体を右斜め前に倒す。こうすると、右側の前鋸筋が収縮する。
③上体を元の位置に戻して、軽いストレッチを得たら、再び上体を同じように倒してレップを繰り返す。
④指定のレップ数を終えたら、立ち位置を右にずらし、ハンドルを左手に持ち替えて、左斜め前に上体を倒して左側の前鋸筋を収縮させる。
⑤セットあたり8~20レップを左右それぞれに行う。


ニーリング・ロープクランチ/プル

この種目は腹直筋の力を借りながら、前鋸筋も刺激できる種目だ。ハイプーリーマシンのケーブルにロープハンドルを取り付け、ケーブルと向かい合ってひざまずく。ロープハンドルを握り、肘を伸ばしたまま上体を前傾させていき、床方向にケーブルを引き下ろす。上体が床面と平行になったら、そこからへそをのぞき込むようにして背中を丸め、できるだけ前鋸筋と腹直筋を収縮させる。その後、ゆっくりスタートポジションに戻す。
ちなみに、正面だけではなく、右方向、左方向に上体を倒していくと、それぞれの前鋸筋への刺激を強めることができる。セットあたり12~20レップを目安に行うといいだろう。前鋸筋も筋肉なので、筋肥大させるには強い負荷が必要だ。しかし、ウエストが太くなるという懸念から、このような種目では高重量が敬遠されているようだが、それは誤解だ。オフシーズンにしっかり前鋸筋を肥大させるためには、使用重量を増やしてしっかり負荷をかけていこう。6~8レップで限界が来るような重量を使うのが目安だ。
ただし、前鋸筋を含む腹筋のワークアウトで、これまで高重量を扱った経験がない人は、最初は慎重になったほうがいいだろう。胴部の筋肉にいきなり高重量の負荷をかけるとケガの危険性も高まる。どんな部位に対してもそうだが、負荷を増やしていく場合は段階を経ていくようにしよう。もし高重量を扱いたいなら、このニーリング・ロープクランチは最適な種目だ。この種目は高重量でもフォームが崩れにくく、そのため筋肉への刺激を確実に得ることができる。前鋸筋を含む腹筋のワークアウトで、ハイレップだけでなく高重量にも挑戦したいなら、ぜひこの種目を組み込むようにしよう。


アイソメトリックポージング

どの筋肉であっても、積極的にその部位を緊張させ、その状態を保持することは、筋肉を研磨するのに役立つ。たとえばワークアウトの途中で、セット間の休憩時に鏡の前でポーズをとっているトレーニーを見かけるが、彼らは自分の筋肉に見とれているのではない。ポージングによって対象筋を緊張させ、休憩中でも筋肉を磨き上げることに集中しているのだ。
日頃からポージングの練習を行っているボディビルダーの筋肉は、体脂肪を落としたときにより一層際立つ。筋肉のカットやセパレーションなどの要素を強調するためにも、ぜひポージングの練習を習慣づけるようにしたい。1970年代のボディビルダーたちは、ポージングの練習に何時間も費やしていた。彼らがやっていたのは、ポーズをとった状態を30~60秒間保ち続けるというものだ。動きはなくても、これだけの時間、筋肉を緊張させるというのは、実際に試してみると非常にきついことがわかる。それでも、このようなポージングを日々繰り返すことで、筋肉のデフィニッションがはっきりと現れ、さらに筋肉と意識がしっかり連動するようになるので、ステージ上で強調したい筋肉を自在に表現できるようになる。今でこそ、減量期のボディビルダーは様々なカーディオマシンを使うことができるが、昔はそのようなものはほとんどなかった。にもかかわらず、当時のボディビルダーはきっちりと体脂肪を絞り、デフィニションを浮かび上がらせて、研磨された肉体を完成させていたのだ。その理由は、彼らが熱心にポージングの練習を繰り返したからに他ならない。ポージングの練習はアイソメトリックホールド(筋肉を緊張させた状態で保持すること)であり、筋肉のデフィニションを作り上げるのに役立つのだ。
読者の中には、有酸素運動よりもポージング練習のほうが楽そうだと思っている人がいるかもしれないが、実はこれがなかなか大変なのだ。全身をできるだけ緊張させて、規定ポーズのひとつをできるだけ長く保ってみればわかる。20秒も経てば、筋肉のあちこちがブルブルと震えてくるはずだ。練習を繰り返していけばいずれ60秒でもできるようになるだろうが、最初からしっかり60秒できる人はそう多くはいないはずだ。筋肉を緊張させた状態を維持するアイソメトリックホールド(ポージング)は、筋肉と意識の連動性を高める練習にもなる。筋肉と意識の連動性が高まれば、自在にポージングがこなせるようになり、ウエイトトレーニングでも対象筋に効かせやすくなるのである。
たとえばアブドミナル&サイという規定ポーズは、腹筋と大腿部を強調するポーズだが、これをワークアウト後に60秒間保持する習慣をつけると、腹筋のデフィニションが少しずつ際立ってくる。あるいは、サイドクランチで片側の腹筋をギュッと収縮させると、前鋸筋への刺激も強まり、その姿勢をしばらく保持することで、体脂肪が落ちるにつれて前鋸筋がくっきりと浮き上がってくる。このサイドクランチのボトムポジションの姿勢を保持するやり方を、腹筋のワークアウトを終えたら欠かさずやってみよう。1回あたり60秒のアイソメトリックホールドを4、5セットも行えば十分だ。そうやって前鋸筋の立体感を作っていけば、ステージ上では一際目を引くはずだ。
アイソメトリックホールド(ポージング)は、ジム以外の場所でも日々の日課として行ってもいい。減量期に入ったら、毎日必ずアイソメトリックホールドを鏡の前で行うようにすると、有酸素運動を補助することにもつながり、より効率よく体脂肪を落としていくことができる。しかもポージングの練習はコンテストに出場する際にも役立つことなので、洗練された究極のコンディションづくりを目指すなら、ぜひポージング練習を日々行うようにしたい。コンテストに出場する目標はないという人にとっては、ポージングの練習をやってもあまりメリットはないように感じられるかもしれない。しかし、かっこいい体づくりを目指しているのであれば、たとえコンテストに出る予定がなくても、ポージング練習によって洗練された体を作り上げることができる。ぜひ、アイソメトリックホールド(ポージング)の練習を日課にすることをおすすめしたい。



挙上重量について

腹筋種目では、高重量は必要ないと考えている人が多い。その理由は、腹筋の筋肥大によってウエストを太くしてしまうからだそうだ。もちろん、筋肥大が起きればサイズが大きくなるので、ウエストの幅に影響する腹斜筋の肥大は敬遠したくなるのも理解できる。しかし、腹直筋や前鋸筋が筋肥大したとしても、ウエストが太く見えるようなことは決してない。腹直筋や前鋸筋の筋肥大は、たとえ体脂肪が絞り切れていなくても、筋肉の形やセパレーションを浮かび上がらせることができるのだ。
減量が進み、体脂肪率が十分に低くなれば、ぼんやりしていたこれらの筋肉の輪郭は明確になる。どれだけ明確に浮かび上がってくるかは、オフシーズンのトレーニングにかかっている。つまり、バルクアップ期に十分な負荷をかけて腹直筋や前鋸筋を鍛えてきた人は、絞ったとき現れる筋肉の隆起をしっかりアピールすることができるのだ。
負荷をかけるような腹筋トレーニングに対して注意が必要なのは、もともと骨格的にウエストが太い人で、そういう人たちは高重量でのクランチさえも気をつける必要がある。前鋸筋については、ダイレクトな刺激を与える種目を終えたあとは、クロスベンチでのダンベルプルオーバーで仕上げよう。この種目は前鋸筋がストレッチされたときに強い負荷がかかるので、十分に筋肉を伸ばしておくことで、筋肉の萎縮を防ぎ、疲労回復を促すことができる。
また、このプルオーバーは前鋸筋のストレッチだけでなく、広背筋や上腕三頭筋、胸筋、腹筋のストレッチにも貢献し、さらに肩関節の柔軟性も高め、可動域も広がるようになる。この種目で特に重要なのはボトムポジションだ。ダンベルをできるだけ床に近づけるように深く下ろすこと。ダンベルを深く下ろせば下ろすほど、広背筋と前鋸筋に特に強いストレッチを得ることができる。また、トップに引き上げるときは前鋸筋の収縮を意識するようにしたい。ただし反動は使わないこと。
プルオーバーでは、ダンベルが額の上まで来たら、その地点をトップポジションにしよう。ダンベルを胸の上方まで移動させる必要はない。むしろそこまでダンベルを移動させてしまうと前鋸筋の緊張が抜けてしまうので注意しよう。ミスターオリンピアで3度優勝したフランク・ゼーンは、ボディビル史上、最も芸術的なプロポーションを完成させた選手のひとりだ。彼が得意としたバキュームポーズでは、信じられないほど前鋸筋が際立っていた。そんな彼がよく行っていたのがダンベルプルオーバーで、彼はこれをスティッフアーム・ケーブルプルダウンと組み合わせてスーパーセットにしていた。
スティッフアーム・ケーブルプルダウンは、スタンディングの姿勢で行っていた。まずはケーブルに取り付けたストレートバーを肩幅程度のグリップ幅で握り、肘を伸ばしたまま、弧を描くようにしてバーを大腿部にまで引き下ろす。なお、ゼーンは上体を前傾させてこの種目を行うことで前鋸筋の緊張を最大限に強めるように意識していた。ゼーンと同じようダンベルプルオーバーとスーパーセットにするなら、それぞれを12~20レップ行うようにするといいだろう。



理想的なワークアウト頻度

コンテストビルダーは腹筋のトレーニングを高頻度で行っていることが多いようだが、実際のところどれくらいの頻度がいいかについては人それぞれだ。たとえば、昔はコンテスト前になると、多くのボディビルダーがほぼ毎日のペースで腹筋のワークアウトを行っていた。現在では腹筋を他の部位と同じように扱い、週1回、もしくは2回のワークアウトを行って、しっかり休養を確保して疲労回復に努める人が増えているようだ。
とは言っても、腹筋は他の部位よりも回復が早い筋肉なので、やろうと思えば毎日でもできなくはない。ただし、その場合は1回のワークアウト量を減らしたほうがいいだろう。さすがに毎日行うのは時間的にも無理があるので、一日おきでもいいし、あるいは週1、2回の頻度に制限してもいい。絞ることを目的にしているなら、食事量も制限しているはずなので、週3回程度を目安にするといいだろう。



前鋸筋をメインにした腹筋のワークアウト

前鋸筋は、腹筋の種目で間接的な刺激を受けやすい。そのため、前鋸筋を効率よく刺激するなら、以下のようなワークアウト例に沿って行うといいだろう。ここで行う種目は指定されたとおりに行ってもいいし、あるいは各種目を1セットずつ連続して行うジャイアントセットに挑戦するのもいいだろう。その場合、全種目を1セットずつ連続して行ったら30~60秒の休憩を取り、同じようにして2サイクル目を開始する。ジャイアントセットで行うと心肺機能も高まるので、有酸素運動としてのメリットも得られる。
【ワークアウト例1】
①ハンギング・セラタス・サイドクランチ 10~20レップ×3セット
②クロスベンチ・ダンベルプルオーバー 10~20レップ×2セット
③スティッフアーム・ケーブルプルダウン 10~20レップ×2セット
※②と③はスーパーセットにして行う。
④ローマンチェア・クランチ 限界レップ×2セット
【ワークアウト例2】
①プッシュアッププラス 限界レップ×3セット
②スタンディング・セラタス・ケーブルクランチ 8~20レップ×2セット(片側ずつにこれを行う)
③ダンベルプルオーバー(またはバーベルプルオーバー) 15レップ×2セット
④ニーアップ 25レップ×2セット
【ワークアウト例3】
①ニーリング・ロープクランチ 12~20レップ×3セット ※たまに高重量を使って6~8レップ×3セットを行う。
②バンデッドチェストプレス/パンチ 12レップ×2セット(または2分間×2セット)
③ディクラインシットアップ 25レップ×2セット
ワークアウトを終えたら、腹筋や前鋸筋を緊張させるポーズをとってそれをしばらく保持しよう。特にコンテストを目指している人は、このポージング練習は欠かさず行ったほうがいいだろう。
もし、自分が出場するコンテストで、同じレベルのライバルたちがひしめいているとすれば、順位争いは厳しいものになる。僅差であっても勝利を自分に引き寄せたいなら、前鋸筋をしっかり磨き上げることもひとつの方法だ。
前鋸筋は小さな部位だが、この筋肉が立体的に浮き上がってくれば、審査員の目を引くアクセントになることは間違いない。

参考文献
Program in Physical Therapy, The University of Minnesota, Minneapolis, Minnesota, USA.
Effect of the Push-up Plus (PUP) Exercise at Different Shoulder Rotation Angles on Shoulder Muscle Activities

William Litz
カナダのウィニペグで活動する有資格のパーソナルトレーナー。過去10年以上にわたり、フィットネス系雑誌やオンライン雑誌にトレーニング関連の記事を執筆してきた。ボディビルに精通しており、熱狂的なボディビルファンでもある。

提供元・FITNESS LOVE

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