トマトのリコピンは太陽電池の「健康」にもいいようです。
中国の吉林大学で行われた研究によれば、トマトに含まれるリコピンをソーラーパネルに加えたところ、抗酸化作用を発揮して発電効率をあげる効果が確認できた、とのこと。
発想の原点は「トマトのリコピンがお肌を紫外線から守るなら、ソーラーパネルの劣化対策にもなるだろう」という極めて斬新なものでしたが、意外にも本当に効果があったようです。
研究内容の詳細は2022年5月11日付で『Advanced Energy Materials』にて掲載されています。
リコピンがお肌にいいなら太陽電池にもいいだろう
日を浴び続けることで皮膚が傷んだり、シミになってしまうのは、紫外線を浴びた皮膚細胞に生じる活性酸素(フリーラジカル)が原因です。
活性酸素は肌のハリを保つコラーゲンなどを破壊してしまうのです。
しかし、トマトに含まれるリコピンには抗酸化作用があり、紫外線にさらされた皮膚で発生する活性酸素を消去してくれる働きがあります。
そのためトマトは「食べる紫外線対策」などと呼ばれています。
一方、ソーラーパネルが太陽光で発電を行っているときにも、パネルのポリマーは紫外線を浴びることでフリーラジカルが発生することが知られていました。
酸素が存在すると、そこで材料に酸化が起きてしまいます。
酸化とは対象から電子を奪い取ることを意味しています。電子が抜かれると、そこには正孔(いわゆるアナ)ができます。つまり材料がボロボロになってしまい、これが腐食や劣化の原因となるのです。
これは発電効率にもダメージを与えます。
つまりお肌もソーラーパネルも同じ原理(酸化)で劣化していたのです。
そこで今回、吉林大学の研究者たちは、次世代型ソーラーパネル「ペロブスカイトソーラーパネル」をお肌にみたてて、トマトのリコピンを加えてみることにしました。
ペロブスカイトソーラーパネルは高い発電効率を持ち次世代の主流と期待されていますが、既存の製品に比べて酸素や水分の影響を受けやすく脆いため、安定性の向上が最大の課題となっていました。
もしリコピンがお肌でみせてくれた抗酸化作用をソーラーパネルでも発揮してくれれば、パネルの劣化を抑えて安定性向上に役立つ可能性があったのです。
しかし、そんなに簡単に上手くいくものなのでしょうか?
リコピンを練り込むだけで本当に発電効率が3~4%増加した
リコピンを加えてることで本当にソーラーパネルの劣化を防げるのか?
実験を行った結果は非常に有望でした。
リコピンはペロブスカイトソーラーパネルの内部でも期待通りの抗酸化能力を発揮し、パネルの酸化を抑えて安定性の増加に役立っていたことが判明します。
さらにパネルの結晶構造内部で電流の邪魔となっていた微小粒子を減らすことで、電気の流れを改善しており、最終的には光から電力への変換効率を3~4%向上させることが示されました。
トマトリコピンをソーラーパネルに練り込むというと冗談のようにも聞こえますが、天然由来の低コストの添加材でソーラーパネルの性能を上げられるのならば、非常にお得と言えるでしょう。
太陽光発電は地球温暖化防止の切り札的な存在であり、現在世界各地でさまざまな研究が続けられています。
しかし人間のお肌とソーラーパネルをリコピンで繋ぐという発想は極めて斬新だと言えます。
もしかしたら未来の世界では、トマトはソーラーパネルの効率を維持するための工業用植物になっているかもしれませんね。
元論文
Learning From Plants: Lycopene Additive Passivation toward Efficient and “Fresh” Perovskite Solar Cells with Oxygen and Ultraviolet Resistance
提供元・ナゾロジー
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