北欧神話における世界の終わり「ラグナロク」は実際に起きていたのか――。最新の研究で約1500年前の北欧では人口減少をもたらすほどの寒冷期が訪れていたことが示唆されている。
■北欧神話「ラグナロク」は実際に起きていた!?
北欧神話によると、「フィンブルの冬」と呼ばれる夏がない3連続の冬が到来し、各地で数えきれないほどの戦乱が起こり、世界の終わりである「ラグナロク」を迎えることになる。
「ラグナロク」はあくまでも神話の世界の話なのだが、デンマーク国立博物館をはじめとする研究チームが今年8月に「Journal of Archaeological Science Reports」で発表した研究では、西暦300年から800年の間の気候変動が樹木の成長に与えた影響を分析することで、この時期にかなり大規模の寒冷化現象が起きていたことが示唆されている。「ラグナロク」は実際に起きていたというのだ。
西暦6世紀半ば、アメリカ大陸で2回の大規模な火山噴火が発生し、大量の火山灰と二酸化硫黄が大気中に放出された。これにより、北半球の気候は厳しい寒冷化に襲われることになった。
特に北欧でこの影響が深刻化したという。この寒冷化によって土地利用が変化し、特定の地域が放棄され、森林が再生された可能性が高く、考古学的記録に見られる居住パターンの変化、森林再生、儀式慣行の変化など、幅広い社会的変化が起きた。
「樹木が育たなくなると、畑で何も育たなくなります。誰もが農業に依存していた社会では、これは壊滅的な結果をもたらしました。これは私たちが取り組んでいるほかの研究によっても裏付けられています。穀物生産の急激な減少、人々が放棄した地域、荒れ果てた畑の上に広がる森林が見られます」と同博物館のプレスリリースで説明されている。
研究によればこの時期、ノルウェーとスウェーデンで人口が半減しており、同様のことがデンマークでも起きていたことが示唆されている。この時期の北欧は窮乏と悲しみに満ちた悲劇の時代であったというのだ。
この時代、デンマーク全土で貴重品や埋蔵物が増加したことが考古学的証拠として示されている。これらの貴重な遺物は、太陽を呼び戻すための儀式的な供物だった可能性があり、人々はラグナロクに先立つ長く厳しい冬である伝説の「フィンブルの冬」を恐れていたことになる。
「この研究は、過去についてだけでなく、おそらく未来についても教えてくれるでしょう。人々はこのような大災害にどう反応したのか? 戦争や大きな社会変化につながったのか? そして人々はどのように適応し、生き延びたのか? 気候が変化し、適応が必要になるかもしれない今日にも関連しているので、私たちはこれについてもっと学びたいと思っています。地球が再び激しい火山噴火や自然災害に見舞われるのはいつになるのか予測することはできません」と研究は結論づけている。
1500年前の北欧で悲劇が起きていたことになるが、この地の人々が世界の終わり「ラグナロク」をサバイバルしたことも事実だ。未来に起こるかもしれない大規模自然災害に備え、生き延びた人々の“レジリエンス”を学ぶべきなのだろう。
文=仲田しんじ
提供元・TOCANA
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