出演者にどこまでリスクを説明し、同意を得ていたか

  出演者を意図的に朦朧状態にするという目的でプロポフォールを使用する危険性について、医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。

「プロポフォールは、全身麻酔や鎮静に用いられる注射剤である。医師でなければ投与できない。今回のケースは何が問題だったのか。日本麻酔科学会が指摘したように、プロポフォールは呼吸抑制のリスクを伴うため、人工呼吸管理など救命措置ができる環境で使用すべきである。確かに、その通りだが、全ての薬には副作用がある。重要なのは、その定量的な評価だ。私は理想論に過ぎるように思う。それは、プロポフォールが一部の医療現場で汎用されているからだ。今回の番組は内視鏡クリニックを舞台にしているようだ。おそらく内視鏡の専門医が監修したのだろう。内視鏡検査の現場では、この薬剤が日常的に利用されている。2017年に発表された『内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)』においてプロポフォールの使用に言及され、一定のコンセンサスが確立している。全ての内視鏡クリニックに人工呼吸管理の体制は整備されていない。プロポフォールは、慣れた医師が使った場合、基本的に安全な薬剤だ。ただ、一定のリスクはある。今回の問題は、出演者にどこまでリスクを説明し、同意を得ていたかだ。

 そして、彼らが、どこまでリスクを許容するかだ。病気の治療が目的の患者は、副作用について一定のリスクを許容せざるをえない。患者ではない、今回の出演者の場合、果たしてどうだったろうか。リアリティを追求すること、他のタレントとの競争に勝ち抜くことなど、様々な要因が影響しているだろう。そのあたりは部外者ではわからない。私は、今回の日本麻酔科学会の対応は大人気ないと感じている。規範論を持ち出して断罪しても、関係者は納得しない。現場に寄り添った対応ができなかったのだろうか」