米テキサス州の中央部にある丘陵地帯(テキサス・ヒル・カントリー)を流れる一本の川。
その川の途中に、直径約4メートルの穴がぽっかりと口を開けている場所があります。
「ヤコブの井戸(Jacob’s Well)」の名で知られる泉です。
まるで魔界への入り口のようなこの穴は、10メートル以上も深く続いており、その先は真っ暗な水中洞窟につながっています。
ここは洞窟探検をするダイバーの人気スポットになっている一方、入り組んだヤコブの井戸の底で、何人ものダイバーが命を落としているという。
それゆえ、「世界で最も危険なダイビングスポット(The most dangerous diving spots in the world)」と呼ばれています。
「ヤコブの井戸」の由来とは?
ヤコブの井戸は、周辺地域に広がるトリニティ帯水層(地下水で満たされた地層)の水が地表に押し出される圧力によって湧き上がる自噴泉です。
なので、単純に川の流れの水が穴に溜まり込んだものではありません。
帯水層は降雨や地表水によって補充されており、地球史的にはおそらく、数百万年前から水が湧き上がり続けていると言われています。
この泉が最初に文字として記録されたのは、井戸の名前の由来にもなったとされる人物、ヤコブ・デ・コルドバ(Jacob de Cordova、1808〜1868)が書いた19世紀の本です。
彼は1839年にイギリスからテキサス州へと移住し、この地域で最初の不動産業者の一人になりました。
彼の本には「井戸は完全に丸く、あたかも熟練した芸術家が固い岩から切り出したかのようで、水はとても澄んでおり、針のような小さなものを落としても肉眼で見える」と書かれています。
ただこれは、ヤコブが移住者たちに対して、井戸のある当地に引っ越すよう宣伝する意味合いもあったようです。
一方で彼以前に、ヤコブの井戸は数千年もの間、地元のアメリカ先住民たちによって崇められてきたことが知られています。
それから、もう一つの名前の由来としては、旧約聖書の『創世記』に登場するヘブライ人の族長ヤコブが涸れることのない井戸を掘ったことに由来する説があるという。
記録によると、20世紀初めのヤコブの井戸では、まるで噴水のように勢いよく水が湧き出しており、今日のように潜ることは困難だったそうです。
しかしその後、湧出量がかなり落ち着いたことで、人々や野生動物が水浴びに訪れるようになりました。
大抵は井戸の縁でくつろいだり、涼むだけでしたが、やはりと言うべきか、ヤコブの井戸の中に飛び込んだり、潜っていく命知らずが現れはじめます。
では、ヤコブの井戸の奥は一体どうなっており、どれほど危険なのでしょうか?