【モータースポーツ特集】技術とテクニック、そしてヒューマンドラマが渦巻いている
(画像=2024年の日本GPで角田裕毅選手は多くのファンから温かく迎えられた。角田選手は6月の段階で2025年も現在のVISAキャッシュアップRB・F1チームに残留することが発表されている、『CAR and DRIVER』より引用)

 いまでこそ「世界最高峰のモータースポーツ」として揺るぎないポジションを手にしたF1グランプリだが、1950年代から1960年代にかけては、現在の世界耐久選手権(WEC)につながるスポーツカーレースのほうが人気を博していた。

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(画像=鈴鹿サーキットで開催されるF1GPは観客席がファンで埋め尽くされる。レースがスタートするまでの待ち時間もF1体験のひとコマである、『CAR and DRIVER』より引用)

 それを覆したのは、かつてブラバムF1チームのオーナーで、F1製造者協会(FOCA)会長を務めたバーニー・エクレストンだった。彼はF1チームを代表してイベント主催者と交渉。テレビ放映権料の分配金などについてチーム側の権利を主張するとともに、世界のどの国を訪れても高いイベント・クオリティが保たれるように尽力した。現在のような一大帝国を築き上げたのである。

 F1は、こうして手に入れた潤沢な予算を背景にして、チームがドライバーに支払う契約金やマシン開発に投じる予算が高額化。結果的にドライバーとマシンの両面で他のシリーズを圧倒する環境が整った。これがさらなる資金の流入を呼び込み競技の緊迫感と華やかさを高める好循環を生み出していった。

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(画像=アイドルのコンサート席を埋めるファンと見紛うようなF1観戦シーン。うちわにサイリウムライト、カメラはモータースポーツ・ファンの間にも定着していきそう。楽しむときは全力で楽しもう!、『CAR and DRIVER』より引用)

 では、F1マシンの技術的優位性は、どのようにして実現されているのか? F1のFはFormula、つまりクルマの形式を定めている。そのまま捉えれば開発の余地はあまりないように思える。しかし、事細かに定められているのはパワートレーン関連が主で、それ以外のエアロダイナミクスやシャシー回りには工夫を施す余地が数多く残されている。

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(画像=応援スタイルはファンそれぞれの工夫が楽しい、『CAR and DRIVER』より引用)

 そして細かに仕様が定められているパワートレーンにしても、ハイブリッドシステムはMGU-KとMGU-Hの2段構えという、極めて複雑で高度なシステムが採用されているのが特徴だ。

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(画像=子供のときからF1観戦。レーシングカートを経験して、将来的にF1パイロットを目指すのだろうか、『CAR and DRIVER』より引用)

 このうちMGU-Kは量産車のハイブリッドと同じで、減速時には車両が持つ慣性力を電気エネルギーに置き換えるもの。一方のMGU-Hは排ガスのエネルギーをターボチャージャーの排気タービンで受け止め、その回転力を電気エネルギーに変換するという極めて特殊な技術だ。しかも、MGU-Hで回生できるエネルギー量には上限が設けられていない。このため、ここで回収するエネルギー量が勝敗を分けるほど大きな効力を有する。

 ただし、2026年から実施される新レギュレーションではMGU-Hが禁じられ、MGU-Kだけになる。とはいえモーター出力や許容される回生エネルギー量が大幅に上乗せされるため、エンジンとモーターの出力比は現状の8対2から5対5になり、電動比率はむしろ格段に高まることになる。 耐久選手権のWECは、F1と違いメーカーが主役

「走る実験室」という伝統を現在でも継承

 これほど高度な技術をマシンに用いているF1グランプリだが、もっとも栄誉がある賞典はドライバーズ選手権だ。チームに与えられるコンストラクターズ選手権はその次。さらにいえば、複雑なパワーユニットを開発・生産する自動車メーカーには何の栄冠も与えられない。この点は、F1グランプリの位置づけをよく物語っているといえる。

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(画像=写真は2022年のWEC第3戦富士ル・マン24時間に出場するトヨタ8号車を取り囲むファンやマスコミ、チームクルーなど。大勢の人が集まっているが混乱していないのは歴史のなせるわざ、『CAR and DRIVER』より引用)

 国際自動車連盟(FIA)が定める世界選手権の中で、F1グランプリに次ぐ知名度を誇っているのはWECだろう。毎年20万人以上を集めるル・マン24時間を軸とし、世界中の耐久レースを転戦する。

 耐久レースは、総論で述べたとおり、自動車メーカーの“走る実験室”と位置付けられる。このため、主役となるのは自動車メーカーであり、最も栄誉ある賞典は自動車メーカーに贈られるマニュファクチュアラーズ選手権になる。マシンとドライバーの主従関係が、F1とは正反対になっているのだ。自動車メーカーの戦いであるWECは、さまざまなパワートレーンを受け入れる素地がある。かつてマツダのロータリーエンジンが優勝したり、一時はディーゼルエンジン車の戦いが繰り広げられていた。ハイブリッド・パワートレーンを受け入れた時期も早く、この傾向は現在も続いている。

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(画像=2023年富士6時間の表彰台シーン、『CAR and DRIVER』より引用)

 なお、自動車メーカーがプライドをかけて戦うのは通常、最高峰カテゴリー(現在はハイパーカー・クラス)だが、これに加えて量産車に近いマシンで競い合うGTクラスが用意されている。しかも、こちらはプロドライバーだけでなくジェントルマンドライバーにも門戸を開いている点もWECならではだ。

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(画像=ラリー・ジャパン2023は愛知県と岐阜県を舞台に開催された。民家の近くを走る区間は大声援を送られながら参加者は次のスペシャルステージまで安全運転で移動していった。今年は11月に開催、『CAR and DRIVER』より引用)

 同じFIAの世界選手権でありながら、主戦場がサーキットではなく一般道となる唯一のカテゴリーが世界ラリー選手権(WRC)。もっとも、一般道といっても未舗装路だけでなく、舗装路やときにはクローズドコースを走る場合もある。このため、WRCを戦うマシンは、サスペンションのセッティングを大幅に変更できる設計とされているほか、駆動系にフルタイム4WDを採用。

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(画像=2023年のラリー・ジャパン開幕前にシティサーキット東京ベイで開催されたファンミーティングには抽選で選ばれた200人のファンが集まった、『CAR and DRIVER』より引用)

 さらにいえば、次々と迫り来るコーナーや刻々と変化する路面コンディションをドライバーに伝えるため、コドライバーが同乗する。1台ずつが順に走行して速さを競うタイムトライアル形式となることも、一般的なサーキットレースとは根本的に異なる。また、量産されるコンパクトカーをベースとした競技車を用いる関係か、ほかの世界選手権以上に観客の平均年齢が若いとされる点もWRCの特徴だろう。

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(画像=インディ500は世界3大レースのひとつ。30万人ともいわれる観客が見守る中、2024年はジョセフ・ガーデン選手が勝利を納めた、『CAR and DRIVER』より引用)

 最後にインディカーはアメリカ生まれのフォーミュラカー・シリーズ。アメリカ国内ではインディカーよりも量産車に近いスタイルをしたNASCARのほうが人気は高いが、日本で馴染みが深いインディカー・シリーズについてご紹介しよう。

 インディカー・シリーズはインディ500を起源としており、その舞台となるインディアナポリス・モーター・スピードウェイは全長が2.5マイル(約4㎞)と異例に長いオーバルコース。このため予選では最高速度が380㎞/hに迫るほど超高速域での戦いとなる。しかも、インディ500は500マイル=約800㎞をひとりで走りきるという耐久レース的な要素も含んでいる。インディ500は決勝日だけでおよそ30万人の観客を集める。賞金も高額で、2024年の勝者、ジョセフ・ガーデン選手には合計428万8000㌦(約6億7000万円)が贈られた。

 こうしてみてくると、同じ国際格式のレースでも競技のスタイルが大きく異なっていることに気づく。あなたがいちばん声援を送りたくなるレースカテゴリーは、どれだろうか?

提供元・CAR and DRIVER

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