2021年12月に発売になった新型アルト。スズキを長く支えてきた歴史的なモデルです。新型モデルの走行性能は、どの程度のものなのか。走りを支える技術はどのようなものが使われているのかなどを解説します。文・鈴木 ケンイチ/写真・PBKK
現在の車は軽自動車にも高い燃費性能が求められています。そのため新型アルトには、燃費を向上させるマイルドハイブリッドとエネチャージという2つの技術が採用されています。
マイルドハイブリッドは上位グレードの「HYBRID S」と「HYBRID X」に採用されており、エントリーと中位グレードの「A」と「L」にはエネチャージが採用されます。
マイルドハイブリッドは、エンジンに付随する発電機(オルタネーター)にISG(モーター機能付き発電機)を使います。その仕組みは、以下のようになります。走行中に減速すると、その減速エネルギーでISGを回して発電。
その電力を専用のリチウムイオン電池と車載の鉛バッテリーに充電します。加速するときは、リチウムイオン電池の電力を使ってISGを回して、エンジンをアシスト。減速するエネルギーを、巡り巡って加速に使えるようにすることで燃費性能を高めます。
エネチャージは、ISGではなく普通の発電機(オルタネーター)を使います。減速時の力を使って発電機で発電し、その電力を専用リチウムイオン電池と車載鉛電池に充電します。充電した電力は電装品に使います。
減速エネルギーを電装品に使えるため、エンジンの力を電装品向けの発電に使う頻度が減ることになります。エンジンの負担が減ることになり、燃費が向上し、走りも軽快になるというわけです。
マイルドハイブリッドとエネチャージでは、使われているエンジンも異なります。
マイルドハイブリッドには、657㏄の直列3気筒DOHC12バルブ吸排気VVTのR06D型エンジンが搭載されます。
その最高出力は36kW(49馬力)に最大トルク58Nm。これに最高出力1.6kW(2.6馬力)・最大トルク40Nmのモーター(ISG)が組み合わされています。燃費性能は、2WDで27.7km/l(WLTCモード)、4WDで25.7㎞/lとなります。
一方、エネチャージのエンジンは658㏄の直列3気筒DOHC12バルブのR06A型エンジンです。こちらの最高出力は34kW(46馬力)に最大トルク55Nm。燃費性能は、2WDで25.2km/l、4WDで23.5㎞/lになります。
トランスミッションは、マイルドハイブリッドもエネチャージも、どちらもCVTを利用しています。
パワーと燃費の両方で、エネチャージよりもマイルドハイブリッドが上回っているのです。
新型アルトには「HEARTECT」プラットフォームが使われています。
これは骨格を屈折させずに、滑らかに車の前方から後方までつないでいることが特徴で、軽量かつ高い剛性を誇っています。また、ボディ本体もセンターピラー、バックドア、サイドドアのそれぞれを環状構造とすることで、全体の剛性を高めています。
サスペンションは、コイルスプリングのバネ定数とショックアブソーバーの減衰力を調整。先代よりも段差通過時の前席のフラット感が13%向上し、後席の突き上げ感は11%低減しています。乗り心地を先代よりも高めているというのです。
電動パワーステアリングも改良されており、低中速域では軽く滑らかに、高速域ではハンドルセンター部の手ごたえを強くして直進性を向上しています。また、交差点などでのハンドルの戻りをハッキリとさせる調整も行われています。
タイヤは転がり抵抗を先代よりも12%低減させたものが採用されています。
新型アルトでは、静粛性向上のための数多くの対策が施されています。
不快な音や振動を防ぐために、フェンダー内の遮音壁、フロントドアの一部に二重シールド、右エンジン・マウントに液封入タイプ、吸音性能を向上させたダッシュインナーサイレンサー、吸音性能を持つ成形天井板、全面フェルトを採用した一体型カーペットなどを採用。走行中の車内の騒音を低減させています。
マイルドハイブリッドとエネチャージという2つの燃費向上技術を採用するのが新型アルトの特徴です。
また、走りを支えるプラットフォームやシャシー、車体も改良されており、乗り心地や静粛性も高まっています。
静かで快適、そして優れた燃費性能を備えていると言っていいでしょう。