このバランスが、20世紀後半以降の人為的な水蒸気発生によって、変化した。陸地では、温暖な乾燥域で4兆トンが蒸発し、その4兆トンがより冷涼な地域に降水するようになった。
この模式図が示すことは、陸地における降水が増えたのは、蒸発が増えたことの反映に過ぎない、ということだ。地球温暖化は持ち出す必要がない。
人類の取水による、河川から海洋への流出量の減少については、IPCCも報告してきた。しかし、その結果、どのような気候への影響があるかについては、あまり研究がされておらず、気候モデルにも組み込まれていない、と筆者は指摘している。
人間が莫大な量の水を蒸発させていることは、説明されると納得がいく。黄河が「断流」したということは以前よく報じられた。灌漑用に水を取りすぎるので、本流が途中で干上がってしまったのだ。いまではこの状態は改善され断流はしなくなっているが、それでも多くが取水され、蒸発していることには違いない。
人為的な取水量の推計を見ると、北米の川では、ミズーリ川は30%が取水されているという。リオ・グランデ川では64%、コロラド川では96%である。つまりコロラド川の水のほとんどは海に到達しない。これは果樹園などの広大な農地を潤している。
この新しい理論だと、「北半球の陸地だけで降水が増えており、南半球の陸地では増えていない」という観測結果をすっきり説明できる。北半球の方が、灌漑や発電などの人間活動が活発になり、蒸発が増えたから、降水も増えたという訳だ。地球温暖化が原因で降水量の増大が起きているとすれば、南半球の陸上でも北半球と同様に降水量が増えているはずだが、観測結果はそうなっていない。
論文では、農業や工業の盛んな大都市の周辺では湿度が高くなっているというデータも示している。また、人為的に蒸発させた水蒸気が凝結して発熱することで北極圏や南極半島などの温暖化が促進されているのではないかとも示唆している。