免許保有者のなかには、「運転に不安があってペーパードライバーになっている」という人が少なくありません。

2023年に三井住友海上火災保険株式会社が発表したアンケート結果によれば、ゴールド免許保有者のおよそ「3人に1人」がペーパードライバーだという結果が示されました。さらに、ペーパードライバーが運転しない理由として、男性の38.5%と女性の77%が「運転が怖いから」と回答しています。

実際のところ、ペーパードライバーと呼ばれる人たちは運転のどのようなところに恐怖を感じているのでしょうか。ペーパードライバーを自認する方々に聞きました。

目次
車幅感覚に自信がもてず…
「あわや加害者」の経験がトラウマに

車幅感覚に自信がもてず…

「運転できない…」ペーパードライバーになってしまった人が抱える「過去のトラウマ」とは?
(画像=©bilanol/stock.adobe.com,『MOBY』より 引用)

最初にお話を聞いたのは、ペーパー歴10年以上の女性です。免許取得から2年ほどは家族の車に乗っていたものの、運転に対する恐怖心が消えず、しだいにハンドルを握らなくなったといいます。

「車幅感覚を掴むのが本当に苦手で、ずっと『どこからどこまでが車か』っていうのが曖昧なままだったんです。周りの人は『乗っているうちに掴めてくるよ』というのですが、初心者の頃から全然改善されている感じがありませんでした。

それでも狭い道のすれ違いなんかは、とにかく早めに止まって待っていれば、相手の方がどうにかしてくれる場面も多かったんですけど……。流れが速い2車線道路とかで、交差点で右折レーンが増えて急に狭くなっている箇所は怖すぎて無理でしたね。

一度そういう場面でブレーキを踏んでしまったことがあって、当然後ろからクラクションを鳴らされて。駐車も苦手で、ショッピングモールの駐車場で知らない人に運転を代わってもらったこともありました。

そういうことが積み重なって、どんどん『自分はなんてダメな人間なんだ』と思うことが増えていったので、なるべく乗らないようにしようと。今は結婚して、運転は夫に任せきりにしています。

性別で何かをいうのはよくないですけど、それでも女性で大きめの車を運転している人を見ると、どうしても自分と比較して『いいな、すごいな』と思ってしまいますね」(30代女性)

こちらのお話にもあるように、初心者の頃に苦労しがちなポイントとして「車幅感覚」が挙げられます。慣れるまでのスピードには個人差があり、それまでに苦手意識が定着してしまうと、なかなか克服するのが難しくなるケースもあるでしょう。

「あわや加害者」の経験がトラウマに

「運転できない…」ペーパードライバーになってしまった人が抱える「過去のトラウマ」とは?
(画像=©︎Ligia/stock.adobe.com,『MOBY』より 引用)

続いては、ペーパー歴が7年ほどになるという男性です。やはり免許取得後しばらくは運転していたものの、あることがきっかけで運転を控えるようになったといいます。

「初心者の頃、自転車を轢きかけたことが2回あるんです。1度目は相手が一時停止側から飛び出してきて、本当にギリギリのところで止まりました。

それからしばらく『少しでもタイミングが違えば、最悪その人の命を奪っていた』という恐怖が残り、『カーブミラーを見ていればもっと安全に止まれた』とか、『少し速度を緩めておけば余裕をもって対処できた』とか考えて。車に乗るのも控えていたんですよね。

でも、このまま車に乗れなくなるのもよくないと思い、また少しずつ乗るようにしていたんです。ただそれから間もなく、コンビニの駐車場から出るときに、左側から来る自転車に気づくのが遅れ、あわや接触しそうになって。

接触はなかったものの、相手の方が高齢で、よろめいて転んでしまったんです。怪我はなく、そのまま自身で立ち上がれていましたけど、去り際に『ちゃんと見ろや!』と怒鳴られてしまって。

今考えれば相手の逆走でもあるんですが、当時はもうそれで『このままじゃいつか本当に人を轢くな』と怖くなってしまったんです。ちょうどそれが都内で一人暮らしを始めるタイミングだったこともあって、それからはまったく運転していませんね。

エリア的に車がなくても困らないですし、あまり結婚や子育てにも興味がもてないので、よほどのことがないかぎりペーパーのままだと思います」(20代男性)

他人の命を奪ってしまう可能性のある自動車は、運転する際に大きな責任がともないます。たとえ保険などで金銭面をカバーできたとしても、相手やその家族の肉体的・精神的なダメージや、自身の罪悪感など、解決できない問題を抱えつづける可能性もあるでしょう。

とくに免許取得から間もない段階で、そうした可能性をありありと突きつけられてしまえば、運転を控える選択に至るのも無理はないのかもしれません。