12気筒は、一度は手に入れたい“男の憧れ”である。ブランドによって性格はいろいろ。だから面白い

【九島辰也のカーガイ探訪記】12気筒は男の憧れ。一度は手に入れたい存在だ(2024年7月号)
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 内燃機関の終焉が叫ばれてからずいぶん月日が流れた気がする。2〜3年前からいまにも新車からエンジンが消えてしまいそうな風潮を感じる。事実その段取りを遂行しているブランドもある。ベントレーがそれだ。この原稿を書いている今日もニュースリリースが届いた。ベントレーがアジア太平洋地域向けのV8エンジンモデル(コンチネンタルGT V8、同GTC V8、フライングスパーV8)の生産を終了するという。もちろん、彼らを象徴する6ℓ・W12エンジンも間もなく終わる。2025年以降すべてのベントレーは、PHEVになるようだからV6が基本型になるのだろう。いやもしかしたら“2ℓ直4ターボ+モーター”なんて話かもしれない。そしてその先はBEVになる?

 それはさておき、今回は12気筒エンジンの話をしたい。 「男の憧れ12気筒!」。その迫力を知ったら一度は手に入れたくなるものである。

 ひとくちに12気筒といっても方式はいくつかある。多くはV型だが、ベントレーのようなW型もあれば、レーシングカー用に開発された水平対向12気筒もある。直列12気筒もなくはない。だが長すぎて乗用車には向かない。過去でいえば軍用トラックや船舶などに使われていた。

 ちなみにベントレーのW12エンジンはもともとはVW製で、狭角のV6エンジンを2つ組み合わせたもの。つまり縦方向にはシリンダー3本分の長さである。現実には対面する3本のシリンダーをずらしているのでそれ以上になるが、6本分の長さをとるV型12気筒より明らかに短い。要するに狭いエンジンルームに詰め込むのに都合のいいエンジンなのだ。

 それでいて迫力は十分で、ベントレーはもちろんVWトゥアレグに積まれていたのを覚えている。走り出した瞬間「こんなに凶暴なSUVでいいの?」と思ったほどだ。いま考えると、あのヤンチャさがウルスの基礎になったのかもしれない。

 アストンマーティンの12気筒エンジンも印象的だ。つい最近も新たな12気筒エンジンを発表し、2024年秋以降に登場するフラッグシップモデルに搭載するとアナウンスした。ツインターボで過給されたユニットは最高出力835㎰、最大トルク1000Nmを発揮するというから強烈だ。その詳細は把握できていないので断言はできないが、AMGが関係しているのは想像しやすい。メルセデスはアストンマーティンの株主であり、技術提携は進んでいる。

 ただその前のV12エンジンはフォード製3ℓ・V6を2基つなげたものといわれる。その証拠に2社のエンジン工場はドイツのケルンにあった。とはいえ、あれだけリニアな吹き上がりと官能的なサウンドを生み出せるのだからすごい。アストンマーティンの世界観がちゃんと表現されていた。

 今回は12気筒エンジンの話をしようと書き出したが、英国車ばかりで肝心? のフェラーリにたどり着いていない。このメーカーもスタートは12気筒だから語るべきだろう。が、すでにスペースがなくなったのでそれはまたの機会に。

 ところで今日、目の前をデイムラー・ダブルシックスが走っていた。ダブルシックスとは12気筒エンジンのことである。それにしてもこの言い方は実に英国人らしい。控えめなところもあるが、その裏にある誇らしげな自尊心も感じさせる。大袈裟に12気筒を気取るブランドに対しちょっと皮肉めいた。それもこれも12気筒が偉大であることを物語っている。

くしまたつや/モータージャーナリスト。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『Car Ex』副編集長、『American SUV』編集長など自動車専門誌の他、メンズ誌、機内誌、サーフィンやゴルフメディアで編集長を経験。趣味はクラシックカーと四駆カスタム

提供元・CAR and DRIVER

【関連記事】
「新世代日産」e-POWER搭載の代表2モデル。新型ノートとキックス、トータルではどうなのか
最近よく見かける新型メルセデスGクラス、その本命G350dの気になるパワフルフィール
コンパクトSUV特集:全長3995mm/小さくて安い。最近、良く見かけるトヨタ・ライズに乗ってみた
2020年の国内新車販売で10万台以上を達成した7モデルとは何か
Jeepグランドチェロキー初の3列シート仕様が米国デビュ