絶滅年代を特定!衰退の理由は「環境変化」にあった
チームは中国南部にある22カ所の洞窟から新たにギガントピテクスの歯を含む化石試料および堆積物サンプルを採集し、分析しました。
さらにこの絶滅物語を明らかにするため、ギガントピテクスが出現した約200万年前の生息環境と、絶滅時期に当たる更新世中期(約20〜30万年前)の生息環境を堆積物サンプルから再構築。
その時代ごとのギガントピテクスの生息環境や歯の変化を調べました。
まず花粉分析の結果、約230万年前の中国南部は「鬱蒼とした森林」「豊富な水や果実」など、ギガントピテクスにとって最適な環境だったことが分かりました。
このような樹冠の閉鎖した森林環境においては食餌の季節変化が小さく、利用可能な水の量も安定していたと研究者は指摘します。
ところが絶滅時期の中国南部は「木がまばらにしか生えていない疎林」が大部分を占めており、より開けた景観から乾燥しやすい状態になっていたのです。
そのせいで水資源や果実の量も大幅に減っていたことが予想されます。
この環境変化の影響はギガントピテクスの歯に明瞭に表れていました。
200万年前は食餌の多様性や水の摂取量が多かったのに対し、絶滅時期になると栄養不足による慢性的なストレスの兆候が見られたのです。
チームはこれらのデータと年代測定の結果を合わせて、ギガントピテクスの絶滅時期は29万5000年〜21万5000年前の間であると結論しました。
その一方で、同時期に同じ地域に生息していたオランウータン(学名:Pongo weidenreichi)は、この環境変化にも関わらず、歯の状態も良好で、生息範囲も広く、見つかった歯の本数から個体数も高い水準で保たれていたことが分かりました。
これは彼らが環境変化にうまく適応できたのに対し、ギガントピテクスの方は食餌の好みや行動を変えられなかったことを示唆します。
おそらく、絶滅時期のギガントピテクスの生活はひどく辛いものだったでしょう。
居心地のいい森林も豊富な水も、そして主食としていた果実もなくなり、その変化に対してなすすべもないまま、栄養不足に陥ったと思われます。
もしかしたら、あまりにガタイが大きすぎるせいで、柔軟な行動の変化や移住ができなかったのかもしれません。
その一方でギガントピテクスの存在は、条件さえ整っていれば霊長類もここまで大型化できることを雄弁に物語っています。
もし豊かな自然が失わらずに彼らがその後も進化を続けていれば、本当にキングコングのような超大型類人猿が誕生していたかもしれませんね。
参考文献
What Wiped Out The Largest Ape Ever to Roam Earth? We May Finally Have an Answer
The extinction of the giant ape; a long-standing mystery solved
元論文
The demise of the giant ape Gigantopithecus blacki
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。