リチウムイオン電池の最大の弱点が宇宙空間では強みに変わるかもしれません。

リチウムイオン電池は穴が開いたり破損すると、発火したり爆発する危険性があることで知られます。

しかし米エアロスペース社(Aerospace Corporation)とアメリカ航空宇宙局(NASA)は、この発火が寿命の尽きた人工衛星の推力として使える可能性があると発表しました。

例えば、運用を終えた人工衛星はそのまま放置すると宇宙ゴミ(スペースデブリ)になってしまいますが、電池を爆破させた推力で軌道を変え、大気圏に突入させられます。

しかも電池を爆破させるには、既存の装置で加熱して熱暴走を促すだけなので、追加の機器も必要ないとのことです。

なぜリチウムイオン電池は爆発するのか?

リチウムイオン電池が爆発する仕組みとは?
Credit: canva

リチウムイオン電池は高電圧・高容量・長寿命といった多くのメリットがあり、スマホやノートPC、デジカメなど身近なシーンで使用されています。

しかし近年、リチウムイオン電池の発火事故が急増しており、その危険性について耳にする機会も多くなりました。

例えば、JALやANAの航空会社は、160Whを超えるリチウムイオン電池は機内への持ち込みが禁止されています。

最も注意すべきは、外部からの強い衝撃でリチウムイオン電池に穴があいたり、破損することです。

衝撃で電池の内部が壊れると、正極と負極がダイレクトに接触するショート(短絡)が起きます。

(粗悪なリチウムイオン電池が何度も使用すると爆発するのは、炭素や金属粉などが繰り返しの使用で両極を隔てる隔壁を突き破って移動しショートしてしまうためです)

このショートが引き金となって、負極と電解液の反応あるいは電解液の分解といった発熱反応が起こります。

ここで終わる場合もありますが、さらに温度が170℃〜200℃まで達してしまうと、電池内の金属酸化物の結晶が崩壊して酸素が放出され、発熱反応が加速して「熱暴走(発火や爆発)」を起こすのです。

人工衛星のバッテリー

人工衛星の運用にはバッテリーが欠かせません。

太陽光が当たる期間はソーラーパネルによる発電が可能ですが、太陽の当たらない日陰に入るとバッテリーに蓄電した電力で稼働します。

そして現在、多くの人工衛星のバッテリーとして使われているのがリチウムイオン電池なのです。

特に日本は世界に先駆けて衛星のための大型リチウムイオン電池の開発を進め、2003年5月に打ち上げられた「はやぶさ」には世界初となる宇宙用リチウムイオン電池が搭載されました。

試験中の「はやぶさ」と搭載されたリチウムイオン電池(左下と右)
Credit: JAXA – 多様化するミッションに向けた蓄電技術

一方で、人工衛星の分野では、地球低軌道(LEO)に浮遊して増え続けるスペースデブリの問題を考慮しなければなりません。

寿命が尽きた衛星を放置すれば宇宙ゴミとなる上に、他のデブリと衝突して破片を生むことで、ゴミの数を爆増させてしまいます。

そこで運用を終えた衛星は基本的に、電力が残っているうちに軌道を変えて、大気圏に突入させ燃え尽きるようにするのです。

ところが衛星の中には、軌道を変える前にバッテリー切れを起こすケースが数多く報告されており、身動きできない衛星がデブリとなってしまうことが問題視されていました。

研究チームは、その万策尽きた状態の中、衛星を動かす最終手段として「リチウムイオン電池を意図的に爆破させる」ことを思いついたのです。