2019年8月、オーストラリア南東部の港町ウロンゴンに住むマリー・マクレイディさんは、35年前に降りかかった過酷な運命を自叙伝『Voiceless』として出版した。多感な娘時代の12年間を、一言も声を発せられないまま生き抜いたのだ。
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■13歳の時に飲み込んだコインを25歳で吐き出す
マリーさんは13歳の時、ひどい咳の発作に見舞われ、病院に担ぎ込まれた。レントゲンの結果、声帯に異常なし。気管支炎と喉頭炎と診断されて治療を始めたが、一向に良くなる気配がない。それきり、まったく声が出せなくなってしまったという。
1984年、25歳になったマリーさんは、ある朝、仕事中にむせて吐血、しまいには黒い塊を吐き出した。すると、その血溜まりの中から1959年製の3ペンスが現れたではないか!
専門家の調べで、このコインが彼女の声帯に挟まり、発声するための振動を邪魔していたことが判明。運悪く、コインは喉の内壁に水平に着地していたため、レントゲンで見落とされたらしい。
「当時、わたしはニューサウスウェールズ州ダプトのセント・アン・カトリック学校の生徒でした。私はそこで司祭から『悪魔の仕業だ』と叱責されました。その言葉がトラウマとなり、結局学校は14歳で退学しました」(マリーさん)
学校を辞めて自宅にひきこもるようになった彼女は、それまで気づかなかったものに気づくようになったと話す。
「最初、近所の人たちは私の両親になんて声をかけていいのかわからない様子でしたが、何カ月過ぎても私の声が戻らないとわかると、あからさまに、それまでとは違う顔を見せるようになりました」(マリーさん)
マリーさんは誰からも話しかけられなくなり、「村八分」を味わったという。本当に困っている時にこそ、周りにいる人間の真の姿が露呈することを知ったそうだ。