静岡県遠州地方に伝わる通称「遠州七不思議」と呼ばれる伝承がある。100以上の話があるため7話の組み合わせは時々で異なるが、主に掛川市の小夜の中山峠にある「夜泣き石」、御前崎市にある「桜ヶ池の大蛇」、遠江国(静岡県西部)に伝わる「波小僧」など様々な怪異が七不思議として知られている。
その中で、7年に1度だけ現れるという「幻の池」と呼ばれる池がある。静岡県浜松市天竜区にある標高約880mの亀ノ甲山、その北側にはスギやヒノキが生えた窪地の林が広がっている。その中腹には「池の平(いけのだいら)」と呼ばれる窪地があり、そこにはおよそ7年の周期で突然に出現する池があるというのだ。その一帯の名前から、池の名前そのものも「池の平」と呼ばれることがあるという。
この幻の池は、夏の終わりごろに水が湧き出て池となり、おおよそ10日から20日ほどのきわめて短期間で水が引き姿を消してしまう。好事家にはたまらないスポットとして名高く、一目見ようと探索に乗り出す人が現在でも多いようだ。
過去の記録によると、古いもので1954年の発見以来7年周期で見つかっているが、1998年以降は12年の開きがあったり2年連続で現れるなど不規則になっている。最新のものでは2020年に確認されているようだ。
この幻の池に伝わる言い伝えというのも興味深い。御前崎市の桜ヶ池に棲むと言われている龍神が、長野県の諏訪湖に行く途中で休憩の為に水を湧かしてこの「幻の池」を出現させるという伝説が残っているという。
また、この幻の池の水を飲むと胃腸の病気に効くと言われており、ある時村人がこぞって池の水を汲んで帰ったが、池が消えると同時に汲んだ水も消えてしまったという。
だが、なぜこの池は突如として現れ、そしてきわめて短期間で消失してしまうのか。一説には、この窪地周辺は降った雨がすぐに流れて行ってしまうほど水が浸透しない硬い地層が多いが、夏になると表土が草に覆われて保水力が高まり、この夏場に溜まった雨水が池の平に集まり池を形成するのではないかと考えられている。
とは言え、現在は不定期となってはいるものの、なぜ周期的な出現となっているかについては詳しくはわかっていない。ある証言によると、水が溜まる時にブスーン、ブスーンあるいはガーン、ガーンという奇妙な音が聞こえてくるという。やはり、地層や地盤の何らかの作用が池を作り出しているということになるのだろうか。
さらに驚くべきことに、この幻の池は『元池』と『新池』の2種類があるのだという。というのは、かつて幻の池は別の地点で発見されていたのだが、いつの頃からかその場所に水が溜まらなくなり、今では現在確認できる地点に出現するようになったというのである。これをそれぞれ元池・新池と呼び、現在確認されるのは新池となっている。まるで、「さまよえる湖」と称されたタクラマカン砂漠のロプノールを思わせる話であるが、元池がなぜ現れなくなったことについてもそのメカニズムは謎のままである。
片道およそ2時間の登山を要求され、しかもいつ現れるかもわからない、全国の秘境巡りを趣味とするような人々ですら「超S級」と誇る難易度と言われる幻の池は、まさしく秘境中の秘境と言えるだろう。我こそはという方は、是非探索に乗り出してみてはいかがだろうか。
因みに、ある周期で出現する秘境には、年に1~2度しか現れないと言われる神奈川県横須賀市の「関根御滝」、過去40年間で5回しか発見されていない富士五湖の第六の湖「赤池」などがある。
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文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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提供元・TOCANA
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