1993年に登場したシャープ製のPDA(Personal Digital Assistant)「ザウルス」。2006年に登場したSL-C3200を最後に生産停止済みの端末で、2024年現在でもPDAを利用し続けている方は決して多くないでしょう。
しかし「ザウルス」には今日のスマホを先取りした先進性が、2024年現在の視点で振り返っても沢山見受けられます。特にSLシリーズと呼ばれる後期のザウルスは、今でも中古市場で一定の取引量があることから、「早すぎた」と評価されるべき端末と言っていいでしょう。
今回は改めて「ザウルス」の先進性を振り返ってみましょう。
PDAとは
PDAはPersonal Digital Assistantの略で、携帯性を重視した個人向けの情報端末です。液晶表示やペン入力、連絡先管理やタスク管理に加え、インターネット接続可能なPDAもあります。
PDAはApple Newton(※90年代に販売されていたAppleの個人向け情報端末)の開発を推進した、Apple社のジョン・スカリー氏による造語。PDAに類する個人向け情報端末は1980年代から存在していましたが、Apple Newtonの登場以後は市場が過熱しています。
たとえば1993年には主に今回取り上げる、シャープ「ザウルス」の初号機が発売。1996年には世界的に有名なPDAであるパーム「Palm」が発売しています。
なおパームはPDAだけでなくスマホにも積極的に進出。2000年代半ばには、物理キーボード搭載のスマホとして有名な「Blackberry」と対立関係になります。こうした歴史はカナダ映画「Blackberry」で深く描かれているため、興味がある方は視聴してみることをおすすめします。
スマホを先取りしていたPDA「ザウルス」
話をPDAとしての「ザウルス」に戻しましょう。ザウルスが誕生したのは1993年。Apple Newtonの登場は1992年であり、PDAという造語が生まれてからわずか1年でザウルスが生まれたこととなります。
ザウルスの原形としてはシャープ社がザウルス登場前夜に手掛けていた、ハイパー電子マネージメント手帳<PV-F1>。つまり最初期のザウルスは「高性能な電子手帳」に近いものでしたが、Windows 95登場以後はザウルスにもモデムが内蔵されたり、キーボードが別売されたり、赤外線通信が可能になるなど急激な進化を遂げていきます。
後期モデルではLinux搭載の上、開発者によるカスタマイズやアプリ開発も可能に
ザウルスの歴史は「ZaurusOS」「Linux OS」によって分けられ、Linux OS搭載のザウルスが登場した00年代初頭以後が後期に当たります。Linux搭載モデルのザウルスは「SLシリーズ」と呼ばれています。
後期モデルではLinuxが搭載され、SLシリーズの公式サイトではハードウェアとソフトウェアの資料一覧からOSのソースコードからコンパイラ、開発ツールまで幅広く公開されています。
つまり従来のPDAのように「製品に搭載されている既定のアプリを使うだけ」でなく、多種多様な用途のためにザウルスを利用できたことを意味します。たとえば「CSIDE for Zaurus」と呼ばれるザウルス向けの統合開発環境を利用することで、Windowsパソコンでザウルス向けのソフトウェア開発が可能でした。
またザウルスをサーバ化したり、ザウルス上に開発環境を構築するといったことも可能でした。開発者にとって極めて柔軟性が高い端末で、後からOSやソフトウェアの追加・削除やカスタマイズができる点などは今日のスマートフォンに極めて近しい環境がすでに実現されていたと言えるかもしれません。