中東専門家は27日のイスラエル軍の空爆をヒズボラにとって「10月7日だ」と表現している。ハマスの奇襲テロを受け、イスラエル軍が震撼したように、ヒズボラはイスラエル軍の空爆で大きく揺れ出した。ヒズボラはハマスがイスラエルを攻撃した直後からハマスを支援し、イスラエルをほぼ毎日攻撃してきた。イラン政権はイスラエルへの圧力を高め、パレスチナの大義の擁護者としてハマスを支援してきたが、イスラエル側の軍事攻勢を受け、立場は逆転してきたのだ。

一方、イスラエルはガザでのハマス壊滅、そして今ヒズボラ最高指導者の殺害で状況は有利となってきたが、100人余りのイスラエル人人質が依然、ハマスの手の中にあって、解放の見通しはない。それ以上に、ガザ戦闘、そして対ヒズボラ戦線で軍事的優位に立ったイスラエル側は「戦闘後の青写真」、ポスト戦争の管理体制が依然明確ではないのだ。ネタニヤフ政権内で強硬派と穏健派で意見が分かれている。ただ、イスラエル軍はナスララ師を失い、弱体化したヒズボラを壊滅するためにここ暫くはレバノン攻勢を強めていくだろう。

問題は、ハマスとヒズボラの黒幕だったシーア派の盟主イランの出方だ。ハマスの奇襲テロで反イスラエル勢力に突進ラッパを吹いてきたテヘランはナスララ師の死を受け、当然報復攻撃に出なければならないが、イスラエルとの全面戦争には躊躇している。イスラエル軍の高度な戦闘力だけではなく、イスラエルの背後には米国が待機している。イランは米軍を巻き込んだ中東全面戦争で勝利できる確信はない。それだけではない。国内の経済が停滞し、国内には聖職者支配体制への不満が充満している。イラン国内の反体制派の動きを無視できない。そのうえ、ロシアから戦争のエスカレーションを回避すべきだという圧力があるはずだ。なぜならば、イランはウクライナと戦闘中のロシアに無人機やミサイルを送ってきたので、イスラエルとの全面戦争となれば、イランはロシアにもはや軍事器材を支援する余力がなくなってしまうことをロシア側は恐れているのだ。