黄金のスペースシャトルやピリ・レイスの地図など、数多くの謎と共に多くの人々を魅了し続けているオーパーツ。その多くは、歴史的観点から見て、当時の時代背景や文化・技術レベルにそぐわない、いわば「不整合な遺物」である。そうした古の静寂へと続く道標とも言うべき遺物のひとつが、日本から遠く離れた東南アジアの国・カンボジアの地にひっそりと佇んでいる。 カンボジアにある城砦都市遺跡として名高いアンコール・トムを抜けて、東に約1kmに進んだ場所に位置する古寺院遺跡タ・プローム。ここは、アンジェリーナ・ジョリー主演のハリウッド映画『トゥームレイダー』のロケ地としても知られる古刹だ。
ここは1186年、クメール人の王朝として一大勢力を誇ったアンコール朝の王・ジャヤーヴァルマン7世が亡き母を想い、その菩提を弔うために建てられたものだという。ジャヤーヴァルマン7世は、王都はもとより、バイヨンをはじめとする仏教建築にも心血を注いだことで知られる。この四方を壁に囲まれ、東西約1000m、南北約700mもの広大な敷地に並び建つタ・プロームは、その名が意味する「梵天の古老」の言葉の通り、今なお見る者を圧倒する。
だが、この遺跡が発見されたのは、そこから約700年もの時が経過した1860年のこと。激動する世界情勢の中で、同寺院がどのように栄え、滅び、かくも朽ちていったかは、今となっては知る由もない。その往時、この地で暮らしていたという12,000もの人々は、一体どこに消えてしまったのだろう。
門を潜り抜けて敷地の中へと足を踏み入れると、そこにはガジュマルの蔓が、まるで来る者を拒むように独特の存在感を示している。こうした光景は周囲の至るところに展開されているが、そうした幾重にも入り組んだ自然迷宮の奥に、「それ」は鎮座している。
6つの突起を背に持ち、サイやカバのようなずんぐりとした体躯をしている「それ」は、現代に生きる我々の知識を元にすれば、ステゴザウルスさながらの異様な代物だ。しかし、一般にステゴザウルスが生息していたとされるのは、ジュラ紀後期から白亜紀前期にかけてのこと。言うまでもなく、ジャヤーヴァルマン7世の在位時には既に絶滅して久しく、逆に「恐竜」という概念については、その当時はまだなかったとされているものだ。
それがなぜ、このような形で、遺跡のレリーフとして象られているのか。ある程度、穿った見方をすれば、この遺跡が発見された1860年以降に、何者かが悪戯で彫って埋め込んだという可能性も否定できない。しかし、それはあくまで推測の域を出ず、少なくとも現時点において、その根拠となるようなものは、なにひとつ現存しない。 なお、あえて世界史的な物の見方をすれば、ジャヤーヴァルマン7世の在位時、アジアの中央部は、あのチンギス・ハーンを祖とするモンゴル帝国が、政治的にも文化的にも大きな影響を及ぼしていた。しかし、そうした中、802年頃とされる勃興から、1431年の王都陥落まで、モンゴル系の勢力に侵攻こそ受けども、外交戦術によって持ち堪え、独立性を保っていたのが、この密林に囲まれた南方の王国・アンコール朝である。 もしかすると、そうした性質ゆえに、今なお明らかとなっていない「別の世界史」が、この地には眠っているのかもしれない。少なくともこの恐竜のレリーフは、訪れる者たちが、そんなことに想いを馳せてしまう逸品と言えるだろう。
(写真/文=Ian McEntire)
※当記事は2015年の記事を再編集して掲載しています。
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提供元・TOCANA
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