オランダの北ホラント州に位置するベルゲンは、多くの画家や彫刻家、作家、建築家などが暮らす芸術村で、毎年10月にアートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』が開催されます。

このフェスティバルでは、アーティストのアトリエを訪問して、絵画や彫刻、ガラス工芸、アクセサリーなど、様々なジャンルのアートを鑑賞し、気に入った作品を購入することができます。

目次

  1. 芸術村ベルゲン
  2. アーティスト主導の芸術振興
  3. アートの祭典『クンスト10ダーグセ』
  4. 『クンスト10ダーグセ』の楽しみ方
  5. 写真展やコンサートも開催
  6. イベント・施設情報
  7. まとめ

芸術村ベルゲン

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

アムステルダムから北西に約38kmに位置するベルゲン (Bergen) は、北海沿岸のビーチやリゾート地として人気の観光地です。北オランダ砂丘保護区 (Noordhollands Duinreservaat) には、5,300haにわたる森林と砂丘地帯が広がり、美しい景色を楽しむことができます。

ベルゲンは1900年頃から、多くの画家や作家、建築家を惹きつける芸術村になりました。1915年から1925年にかけて、表現主義的な作風を取り入れた「ベルゲン派」が形成され、画家たちの多くはウェストドルプ (Westdorp) の集落にあるブアー通り (Buerweg) にアトリエを構えていました。

ベルゲン派の画家たちは、後期印象派から脱却し、キュビスムの影響を受けた具象表現と表現主義的なタッチで、オランダ絵画に新風を吹き込みました(下写真)。

ベルゲン派の創始者とされるアンリ・ル・フォーコニエやピート・ファン・ウァインゲルをはじめ、チャーリー・トーロップ、ジョン・レーデッカー、レオ・ヘステルといった代表的な画家や彫刻家の作品は、ベルゲンのクラネンブルク美術館 (Museum Kranenburgh) やアルクマール市立美術館 (Stedelijk Museum Alkmaar) で常設展示されています。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)
  1. エルゼ・ベルク 『自画像』 1917年, ユダヤ歴史博物館, アムステルダム
  2. ジョン・レーデッカー 『ヤン・トーロップのモニュメント』 1937年, バイテンルスト通り, デン・ハーグ
  3. アンリ・ル・フォーコニエ 『プルマナッコ』 1908年, クラーネンブルフ美術館, ベルゲン
  4. レオ・ヘステル 『マヨルカの庭園』 1914年, デン・ハーグ市美術館

アーティスト主導の芸術振興

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

<ベルゲンにアトリエを構える画家のジオルジ・シェンゲリア氏 Photo: Kunst10daagse>

ベルゲンに暮らすアーティストたちは、地域の芸術振興にも尽力してきました。1947年には、彫刻家コンスタント・ニーヴェンホイス、詩人エイドリアン・ローランド・ホルスト、画家チャーリー・トーロップらのアーティストたちが、ベルゲン市長や住民、ジャーナリストたちと協力し、アーティスト・センター・ベルゲン (KunstenaarsCentrumBergen) 財団を設立しました。

この財団は、ベルゲンのアーティスト支援や作品の保護に加え、芸術と市民をつなぐ架け橋となることを目的としており、作品の購入やアーティストへのプラットフォームの提供、展覧会や講演会、コンサートの開催など、多岐にわたる活動を行っています。また、1979年には、美術品のレンタル事業を運営する財団も設立されました。

前述のクラネンブルク美術館もアーティスト・センター・ベルゲンのメンバーであるアーティストたちの提案により、1993年に開館し、現在では芸術村ベルゲンのシンボル的存在となっています(下写真)。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

クラネンブルク美術館ではアーティスト・センター・ベルゲンに所属するアーティストの作品が展示されており、ミュージアムショップでは作品を購入・レンタルすることができます(上写真)。

現在、アーティスト・センター・ベルゲンには約180人のアーティストが所属しており、そのジャンルは画家、彫刻家、作家、作曲家、音楽家、演劇制作者、写真家、陶芸家など多彩です。アーティストたちとベルゲンのつながりは強く、夏にはベルゲン中心部にあるルイネ教会 (Ruïnekerk) 周辺で毎週木曜日にアートマーケットが開催され、毎年10月には数万人の来場者を集める『クンスト10ダーグセ (Kunst10Daagse) 』で賑わいます。

アートの祭典『クンスト10ダーグセ』

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

『クンスト10ダーグセ (Kunst10Daagse)』は、ベルゲンに暮らすアーティストたちによって、毎年10月の最終週に開催されるアートフェスティバルです。2024年の開催期間は10月18日から27日の10日間です。「クンスト」はオランダ語で「アート」、「10(ティーン)ダーグセ」は「10日間」を意味し、2つを合わせて「クンスティーンダーグセ」と発音します。

クンスト10ダーグセは、アーティストやギャラリーへのアクセスをより身近にすることを目的として、1993年にスタートしました。現在では、約4万人が訪れる大規模なイベントに成長しています。このイベントでは、アーティストのアトリエや住宅、ギャラリー、レストラン、ショップ、庭園などが会場となり、大規模なアートフェアとは異なる独自の魅力があります。会場は入場無料で、毎日11:00~17:00までオープンしています。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

私は、アートアカデミー時代の友人がベルゲンに暮らしていることもあり、毎年クンスト10ダーグセのアトリエ巡りを楽しんでいます。作品はもちろんのこと、アーティストが制作を行うアトリエや歴史的な建造物、周辺の緑豊かな風景を眺めるのも、クンスト10ダーグセの楽しみのひとつです。

絵画や彫刻、写真、陶器、ガラス細工、アクセサリーなど、さまざまな形式のアートが展示されており、気に入った作品を購入することもできます。また、アーティストや地元の人たちとの会話が楽しめるのも、クンスト10ダーグセの魅力です。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

<2024年のクンスト10ダーグセに出展するアーティストたちの作品 Photos: Kunst10Daagse>

アーティスト名は左上から順にBabet Straasheijm, Martine Ansingh, Sandra Pot, Eric Winder, Caroline Metzelaar, Erik Klein Schiphorst, Olga Schnitker, Frits Hardon, Erik Tierolf, Rens de Boer, Joost Zwagerman, Babette Hofstede

『クンスト10ダーグセ』の楽しみ方

2024年のクンスト10ダーグセでは、300人以上のアーティストが約130の会場で展示を行います。なるべく多くの会場を訪れたい場合は、クンスト10ダーグセの公式サイトやカタログでアーティストをチェックし、事前にルートを計画しておくことをお勧めします。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

公式サイトには参加アーティストやギャラリーの名前、作品の写真、展示会場の所在地などが掲載されています(上写真)。カタログにはさらに、展示エリアをゾーン分けしたマップもあり、同じゾーン内の複数の展示会場を効率的に訪れるのに便利です。

カタログは10ユーロで、9月中旬からベルゲン市内の書店 (Thomas, De Eerste Bergensche Boekhandel) や額装店 (Lijstmakerij Meijers) で販売されます。また、クンスト10ダーグセの期間中は市内中心部にあるルイネ教会近くのインフォメーションセンターでも購入できます。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

<OpenStreetMap (CC BY-SA 2.0)>

クンスト10ダーグセとベルゲンの風景の両方を満喫したい方には、レンタサイクルがおすすめです。クンスト10ダーグセの展示会場は、ベルゲン市街地、北海沿岸のベルゲン・アーン・ゼー (Bergen aan Zee)、その間に位置するウェストドルプ (Westdorp) に点在しているので、とても便利な移動手段です(上地図参照)。

私はいつも自転車でクンスト10ダーグセを巡りながら、歴史的なベルゲンの市街地や馬や牛に出会えるのどかな牧草地、開放感あふれるポルダー、そして北海のビーチの眺めを楽しんでいます。北オランダ砂丘保護区 (Noordhollands Duinreservaat) にあるスコールセ砂丘 (Schoorlse Duinen) は、オランダで最も高く (55.4m)、最も広い (5km) 砂丘で、オランダならではの風景を堪能できます(下写真)。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

写真展やコンサートも開催

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

<クンスト10ダーグセで子ども向けの歌の参加型イベントを催すシース・アウド氏>

クンスト10ダーグセの期間中は、音楽や演劇、ダンスなどのパフォーマンスも行われ、フェスティバルの活気ある雰囲気を盛り上げます。

美しい森と庭園に囲まれたヘット・ホフ邸 (Landgoed Het Hof) での写真展は、クンスト10ダーグセのメイン企画のひとつです。2024年は、写真家シース・ノールト (Cees Noort) による、ベルゲンのアーティストたちを撮影した『クンストコッペン (Kunstkoppen)』展が開催されます。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

特別なキャンバスされた写真は、屋外の庭園にインスタレーションのように展示されます。上の写真は過去の写真展の様子です。

2024年は『青少年写真展 (JeugdFotoTentoonstelling)』 も企画されています。10歳から 14歳までと 15歳から 18歳までの 2部門で、最終選考に残った10作品がヘット・ホフ邸の庭園に展示される予定です。クンスト10ダーグセの期間中、鑑賞者は投票で「鑑賞者賞」の審査に参加することができます。

クンスト10ダーグセでは、音楽コンサートやサイクリングツアーなど、有料のイベントも開催されます。ルイネ教会(下写真)では、クラッシクやクラッシクやジャスのコンサートが開催され、荘厳な雰囲気の教会でピアノやチェロの美しい響きを鑑賞できます。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

イベント・施設情報

クンスト10ダーグセ  Kunst10Daagse

  • 会場:ベルゲン市内各所 
  • インフォメーションセンター所在地:Raadhuisstraat 2, 1861 KS Bergen
  • アクセス:アムステルダム中央駅よりAlkmaarまたはDen Helder行きインターシティで35分Alkmaar下車, Plein行きOveral Bus 166系統に乗り換えて14分Plein下車徒歩4分
  • 会期: 2024年10月18日-27日
  • 開館時間:11:00~17:00
  • 入場料: 無料 ※音楽コンサートやサイクリングツアーは有料です

クラーネンブルグ美術館 Museum Kranenburgh

  • 所在地:Hoflaan 26, 1861 CR Bergen
  • アクセス:アムステルダム中央駅よりAlkmaarまたはDen Helder行きインターシティで35分Alkmaar下車, Plein行きOveral Bus 166系統に乗り換えて14分Plein下車徒歩9分
  • 営業時間:火-日曜10:30~17:00/ 復活祭(2025年は4月20日と21日), 5月5日、昇天祭(2025年は5月29日), 聖霊降臨祭(2025年は7月8日と9日), Kunst10daagse Bergen期間中の月曜日, 12月26日は開館/ 1月1日、王の日(4月27日※27日が日曜日の場合は4月26日)、12月25日は休館
  • 定休日:月曜
  • 入場料(入館料):大人15.5ユーロ, 16以下無料, ミュージアムパス無料

まとめ

芸術村ベルゲンで開催されるクンスト10ダーグセは、アーティストや地元の人々と触れ合いながら、多彩なジャンルの現代アートを鑑賞できるフェスティバルです。スーツケースに収まるサイズでリーズナブルな価格の作品も多く、オランダ旅行の記念にアートを購入するのもお勧めです。

ベルゲンは緑豊かで落ち着いた雰囲気の街で、北海沿岸のビーチや砂丘では美しい風景を満喫できます。市街地では、15世紀に起源を持つルイネ教会やクラネンブルク美術館でもクンスト10ダーグセのプログラムを楽しむことができます。

オランダの現代アートを購入できる!アートフェスティバル『クンスト10ダーグセ』
(画像=『たびこふれ』より引用)

建築に興味のある方はぜひ、アムステルダム派のヴィラが立ち並ぶパーク・メールワイク (Park Meerwijk) を訪れてみてください(上写真)。1917 年から 1918 年にかけて、アムステルダム派の若手建築家たちが17棟のヴィラをデザインしました。曲線的な茅葺き屋根やレンガのファサード、趣向を凝らした窓枠やドアが特徴です。

私は2024年のクンスト10ダーグセで、ベルゲンに暮らす友人のアトリエでグループ展をすることになりました。もう1人のアーティストを加えて3人で、どんな作品をどう展示するのかなど、展覧会に向けてのプロセスを楽しんでいます。

ベルゲンには今なお、アーティストたちがイニシアティブをとって芸術を盛り上げる伝統が息づいています。アムステルダムからの日帰り旅行に、またはアルクマール旅行と組み合わせて、アーティストを魅了し続けるベルゲンを訪れてみてください。

※イベントや施設の詳細、アクセス方法などは2024年9月時点のものです。最新情報については、必ず公式サイトなどでの確認をお願いいたします。

文・写真・Kayo Temel/提供元・たびこふれ

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