フローレンス・フォスター・ジェンキンスは、19世紀後半から20世紀半ばまで活躍していたアメリカのソプラノ歌手である。近年においては、彼女の生涯を描いた映画が公開されたことでその名が知られるようになった。
彼女の人気は非常に高く、コンサートでは会場に入ることができなかった人々が外周を取り囲み、警察が出動したほどであったという。彼女の何が人々と魅了させたのか。当然ながらそれは彼女の歌声であるのだが、その歌声はあまりにも「音痴」であることで知られており、「史上最も音痴だったソプラノ歌手」と呼ばれている。
彼女の歌声の特徴は、「音程が取れない」「リズム感が無い」「高音低音が出せない」というかなり致命的なレベルであり、伴奏のピアノが必死に合わせようとしてもさらにズレてしまうほどであった。 当の本人である彼女は、自身を「一流の音楽家」であると思い込んでいたほど歌唱力に強い自信を持っていたようである。
そのような彼女は、超絶難曲としても知られるモーツァルトの歌劇『魔笛』第二幕のアリアを収録したこともあった。この曲は、「高音を出す天性の資質」と「高音を自由自在に使いこなす技術」が要求されると言われているが、その音声を聞けば先述した彼女の歌いぶりがよくおわかりになるだろう。
さすがは難曲と言われるだけのものであったせいか、自身の歌唱力に対して絶対的な自信を持ち、リハーサルも無く一発撮りのスタイルを貫いていた彼女も、この曲に関してはその自信を揺るがせたと言われている。
彼女の歌唱に対する著名人の評もひどいものであり、哲学者V・A・ハワードは「歌において想像しうるあらゆる欠点、あらゆる失敗のカタログだ」と評し、ファッションライターのサイモン・ドゥーナンは「輪姦される七面鳥」だと評したほどであった。
あまりの音痴に怒りを買うことも多かった反面、逆に一部の好事家から絶大な支持を集めたのも事実である。彼女の強い希望によって実現した、音楽の殿堂であるカーネギーホールでの公演チケットは即完売し、満席になってしまうほどの人気を博したのだ。
彼女と共演したとあるヴァイオリニストは、「笑いをこらえるのがものすごく楽しい」と回想した。この時代、アメリカは大戦の只中であったこともあり、国民は娯楽に飢えていた。そこに登場したフローレンスの度を超えるほどに前衛的な歌声は、その渇望を潤すに十分すぎるインパクトをもたらしたのである。また、彼女が本気で抱いていた自称一流であるという大真面目さも観客たちにうける要因となっていた。
そして、カーネギーホールでの公演を無事終えた彼女は、その約1ヶ月後76歳でこの世を去った。生前より有していた莫大な資産は、未来の音楽界発展を願う彼女の強い希望のもと、クラシック音楽協会などの寄付にあてられたという。一見すると、単に自惚れていたようにも見える彼女であるが、歌手である身としての強い矜持があったことは間違いなかったのだろう。
【文 ナオキ・コムロ】
文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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提供元・TOCANA
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