1980年代の女性アイドル全盛期のさなか1984年にデビューをした岡田有希子は、ポスト松田聖子と称されるほどにタイトルを独占するほどの歌唱力を誇ったアイドルであった。将来を期待されたそんな彼女が飛び降り自殺でこの世を去ったのは、わずか数年後の1986年4月。18歳というあまりにも若すぎる彼女の死は、その現場写真が週刊誌で掲載され衝撃を与えたほか、その後若者の後追い自殺が多発(通称ユッコ・シンドローム)したことで社会問題にもなった。

 多大な衝撃を与えた彼女の死は、その後いくつもの不気味な噂や都市伝説が囁かれるきっかけをも生み出す結果をもたらした。

 例えば、彼女の死の直前に撮影されたと言われる心霊写真は有名だ。左側に首から上が写る痩せこけた女性と右側に大きく写り込んだ巨大な赤い目のようなものが写る画像は、今でもネットで目にすることができるほどによく知られている。実際は、『これはすごい日本の心霊写真集』(1985、ビッグジャガーズ)の中で紹介されていた写真であり、そもそも被写体の女性も岡田有希子とは無関係である。

 彼女にまつわる心霊的な話題の中で最も世間を騒がせたのは、テレビ番組にて彼女の幽霊が映りこんでいたというものであった。

 それは、1968年から1990年まで20年以上に渡り生放送されていた音楽番組『夜のスタジオ』での出来事。1986年5月28日、同時代のアイドルである中森明菜が新曲「ジプシー・クイーン」を歌っているその舞台の背後に、岡田有希子ではないかと思われる女性がいるというものだ。

 しかも、これだけではない。一ヶ月後の6月18日にに放送された同番組で、同じく中森が「ジプシー・クイーン」を歌うその背後、端に座るデーモン小暮閣下の傍に真っ赤な何かが映し出されており、それが「血まみれの顔をした岡田有希子」だというのだ。いずれも、放送局に電話が殺到するほどの大騒動に発展したと言われている。

 中森は、1982年デビューのアイドルとして岡田の先輩であり、かつライバルという関係であった。だが、それ以上に「姉妹」と称されるほどに親交が深い仲であったとも言われている。両者が、同じオーディション番組出身であったということ、そして岡田がオーディション決勝で中森のデビュー曲「スローモーション」を歌ったことが、互いの縁をつないだきっかけであったという。岡田の訃報は、中森にとってもショックが大きいものであった。

 さらに、彼女の幽霊が出たとされる時に中森が歌っていた「ジプシー・クイーン」が、彼女の自殺を予言していたのではないかという噂も出回るようになった。その楽曲に、「百二十五頁で終わった二人」「アスファルトのBedにため息こぼれる」という歌詞があるのだが、これは彼女の自殺した時刻(12時5分)や飛び降り直後の状況を暗示しているのではないかと一挙に騒がれたのだ。また、彼女の自殺の原因が失恋にあったという説もあり、この楽曲も失恋女性の心情を歌うものであったことも結びつきに拍車をかけた。

 なお、2度に渡って騒がれた生放送での幽霊については、1度目は「舞台奥に座る別の出演者」、2度目は「飾られた花」であるということで、現在では落ち着いている。

 岡田有希子の突然の死に、親交の深かった中森明菜との関係、こうした事情が重なったことで生まれたのが、これらの幽霊騒動であったと言えるだろう。また、その後にも岡田にまつわる心霊都市伝説が後発的にいくつも生み出されているという事情もあることから、彼女の死がいかに多くの人々に衝撃を走らせたか、その影響力を思い知らされる。

文=黒蠍けいすけ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

提供元・TOCANA

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