「稲川淳二の怪談グランプリ」は2009年に関西テレビでスタートし、プロアマ問わず全国から集まった怪談師たちが、とっておきの怪談を披露する日本随一の怪談イベントだ。2022年の14回大会を最後に番組は終了したが、この度TVerスペシャル番組として2年ぶりに帰ってきた。グランプリの模様は現在、予選、本選含めTVerで絶賛配信中だ。
今回、怪談グランプリの復活に際して審査員を務める山口敏太郎氏が、昨今の怪談ブーム、そして怪談界のこれからについて語ってくれた。
──山口敏太郎先生、よろしくお願いします。昨今は怪談ブームということで、かなりYouTubeなどを見ても語られる方が多いですね。
山口敏太郎(以下山口):そうですね、一時的なブームの可能性はありますし、これを起爆剤にして怪談を定着させるチャンスでもあるなと思ってます。
──なるほど。まず、関西テレビの『怪談グランプリ』なんですが、これはいつごろから、どういった経緯で立ち上がったものなのでしょうか?
山口:実を言うと、今の怪談ブームのベースになっているのがこの『怪談グランプリ』なんです。2007年ぐらいに放送作家のY君と相談しながら、「漫才グランプリ(M-1)があるから怪談グランプリがあってもおかしくないよね」って話をしていたんですよ。それで、「怖い話のナンバーワンを決める大会をやらない?」ってなったんです。
それが最初で、まぁ遅くまでかかって二人で打合せして企画書を作って、いろんな会社に持ち込んだんですよ。そうした中で、関テレが興味を示してくれたんです。関テレは『恐怖の百物語』など、わりと心霊ものをよく扱っていたので比較的手を上げやすかったのかなと。
それで、制作会社で「元気な事務所」という、非常に優秀でお安くやってくれる京都の事務所が見つかって、「じゃあ元気な事務所、関西テレビでやろう!」ってことで始まったのが、2009年ですね。それで第一回が始まったんだよね。
──怪談ブームと同時に「怪談師」と名乗る方が増えましたが、この言葉は山口先生が普及させたとお聞きしたのですが。
山口:以前、うちの事務所にファンキー中村氏が所属していたんですが、ネット企業S社にいた方と組んでネットでもって怪談を配信したんです。当時、まだ電子出版もあんまり盛んではなかった2000年ごろですね。その時に「怪談を語る人のことを何と呼べばいいの?」ということで「怪談師」という言葉を作ったんです。最近の若い子は、「怪談師」というのを僕が言い出したということを知らなくて、僕の前で平気で「怪談師」と名乗る人がいるんですが、日本語として広がった証拠だからいいかなと。
そうしたら後々、終戦直後くらいまでは怪談師と言う職業があったというのを耳にしたんです。でも絶えてしまって、怪談師そのものが消えてしまったのだと。落語家によって滅ぼされてしまったんです。夏って怖い話を落語家も講談師もしちゃうでしょう。しかも怪談は夏しかできない。追い込まれて仕事が無くなってしまったんだね。
だから、怪談師にとって落語家はライバルなんですよ。でも、その落語家に日和ってる人が最近いるけれども、日和って寄って行っちゃダメだろうと、むしろ負けてなるものかという風にならないとね。
──怪談師という言葉の成り立ちにそういう経緯があったんですね。そういった流れで、今の怪談ブームということに繋がっているとは思うのですが、そうした目線に立つと、今のブームを山口先生はどのように受け取れますか?
山口:俳優で食えない、芸人として花が咲かない、そういう人達が「怪談でもやるか」って気持ちで始めてる人が多いですよ。芸人とかだと喋るのも上手いですから、そこそこ仕事が来るようになるんですけれども、片手間でやってもらっては困るなぁってところはありますよね。だから、本当に熱意を込めて怪談師を志している人達が増えていくことはありがたいと思うんだけれども、腰掛程度にやってる人が増えるのは残念ですよね。まぁ、人によってそれぞれ熱意というのは違いますので、一人一人聞いてみないとわからないけれどもね。
──となると、山口先生にとって若手の怪談師というのは、どういう評価なのでしょうか。
山口:んん、今は混乱期・・・淘汰が始まっている時期だと思うんですよ。芸人の世界と勘違いしてるのは、芸人の世界であればお笑いは作り話でもいいと思うんだけれども、怪談の場合は盛りすぎちゃうとダメなんですよ。体験者が話す現実に則した話じゃないといけない。
それを踏まえながら、面白くオチを付けて喋ることができるかというのが腕なんです。だから、芸人の盛りまくるお笑いとも違うし、リアリティが無いといけない。ただ難しいのは、「リアリティがある」というところですね。例えば、稲川さんの焦ってオドオドしながら喋るというあのスタイルは一流の芸なんだけれども、あれが一つの”型”になってる。その方が流暢に喋るよりもリアルっぽいじゃないですか。
だからあれがいいんじゃないかな。居酒屋で友達にさらっと怖い話を言う、だから芝居がかってるのはいまいちなんだよね。かと言って、演技力がまるで無いというのも問題だけれども(笑)。だから、頃合いっていうのが本当に難しい。だからそこら辺で「真剣勝負」っていうのか、本気の話、「ガチ怪談」を語ってくれる人が何人か残るかなぁ?って時期だよね。
──まだ確立されてないっていうことですかね。
山口:だから、創作怪談をやってるヤツと芸人で「創作です」って言ってきてるヤツらと、「いや、オレはガチしかやらないぞ」ってヤツらが混然となってるっていうのが、今の状況ですよ。芸人から来た側は「作り話でもいいでしょ?」「いくら盛ってもいいでしょ?」って気持ちで来てるけれども、何度も聞いてると話が変化していってより面白くなっていくんだよね。
まぁ、そういう人達と、「ガチの話だからオチが付かなくてもいいでしょ?」っていう、アマチュア出身の子。まぁ、確かにガチの話だからオチが付かないのは当たり前なんだけれども、それをオチっぽく見せるのもテクニックなんだよね。「ガチだから、オチがないのはしょうがない」っていうのは、パンクラスの試合みたいなものですよ。「うちはガチだから1分で終わってもしょうがないでしょう?」っていう。
ただ、そうなんだけれども、プロフェッショナルである以上は、見せなきゃいけない。ということは、本当の話をしながらも「ここで切ればオチになる」とか、「この後日談を入れるとオチになる」とか、加工して上手く落ちを付けていく。”付け加え”ではなくてね。
──なかなか、混迷極まる状態のようですね。そうした流れで今後、怪談業界とはどのようになっていくと思われますか?
山口:二つに割れるんじゃないですか?「創作怪談」をやってる人達と「ガチ怪談」をやってる人達。大体、創作怪談とガチ怪談の違いも判ってないような人たちが入ってきてるからね。マニアだったら話を聴いていれば判るんですよ。「あぁ、これは作り話だなぁ」とか、そういう風に耳が肥えてくるんだよね、ファンが。ファンが熟成されてきて判るようになってくると、創作怪談の人達が落語の方に寄って行っちゃって、リアル話をしている人達と分離していくのかなと。
──山口先生の怪談に対する熱意というのが、非常によく伝わってきます。山口先生自身で怪談のイベントというのは何かやっているのでしょうか?
山口:2017年から『怪談王』というのをやっています。怪談王は、ジャッジペーパーで10項目くらい定めてるんですよ。「間合い」とか、「表現力」とか、「声色」とか、そういういろんな項目で10点満点を付けていって、合計何点と点数を付ける。
割と怪談の評価ってファジーなものが多いじゃないですか。結局、個人の好き嫌いになるから。それでもどうにか、平均的にならしたいと思ったからジャッジペーパー制を取り入れてるんですね。まぁ、うちのジャッジペーパー制をそのままパクってるところもあるけれどもね。こっちが苦労してるのにねぇ(笑)。
──その怪談王というのも、今予選が始まっているということで。
山口:ネット予選から地区予選、そして本大会へ進んでいきます。リアルファイト、ガチ怪談だけのナンバーワンを決めるというのが怪談王の趣旨です。
──なるほど。話は戻りますが、怪談グランプリは昨年に終わっていたということなんですが。
山口:そうなんですよ。2009年から始まって、昨年は中止してしまったんですよ。その間、僕は2回休んだんです。1度目はスケジュールの関係、2度目は病気でそれぞれ休むことになったんです。結局、2回休んだだけでずっと出ていたんですけれども、まぁ中止という形になってしまった。でも、今年からTVerで復活したんです。こうなると全国どこでも見ることができますから。
──復活した怪談グランプリの見所はどういった点でしょうか?
山口:TVerで観ていただいて、日本中で観ることができるという点で逆に面白くなったかなと。関西だけでやってるという地域性も良かったんですが、TVerという媒体を使って若い世代に広く訴えかける新しい怪談、今年なんかはニューウェーブと言われる人達が随分来ていましたから、新しい波が来るんじゃないかなとは思ってます。期待して下さい。是非、TVerで怪談グランプリをご視聴下さい。9月8日まで配信しています。
──皆様よろしくお願いします。以上となります、山口先生ありがとうございました。
山口:はい、ありがとうございました。
『稲川淳二の怪談グランプリリターンズ2024~新章開幕!最恐怪談師決定戦~』TVer独占配信中!9月8日(日)まで
【出演者】
MC:岡田圭右(ますだおかだ)
アシスタント:加藤千尋(元BiSH・セントチヒロ・チッチ)
審査委員長:稲川淳二
審査員:増田英彦(ますだおかだ)、山口敏太郎、島田秀平、三木大雲
本選進出怪談師:※予選ポイント順
たっくー、神原めぐみ、木根緋郷(ひさと)、富田安洋
【番組ページ】
関連キーワード:怪談, 山口敏太郎, 怪談グランプリ
文=にぅま(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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提供元・TOCANA
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