周囲より10℃も暖かいようです。
米国の南メソジスト大学(SMU)で行われた研究により、月面の裏側で熱を発する巨大な構造物が発見されました。
構造物は35億年前に活動を停止した古代火山の頂上部分で、これが地下に向けて広がっており全体では最大直径50kmに及んでいることが判明。
また温度を計測した結果、月にある似たような地理条件の平均的な温度と比べた場合20倍も高い異常な熱量が発せられており、周囲に比べて10℃以上も暖かくなっていることがわかりました。
月の火山は今から20億年前には活動を停止していると考えられており、月内部から吹き出た高温のマグマが原因というわけではなさそうです。
巨大な発熱体はいったい何で、どんな原理で発熱していたのでしょうか?
研究内容の詳細は2023年7月5日に『Nature』に掲載されました。
月の裏側に熱を発する謎の物体の発見
問題となる場所は、月の裏側にある2つのクレーター(コンプトンクレーターとベルコビッチクレーター)の間に存在する地域「コンプトン・ベルコビッチ」に存在します。
この地域は多くの火山の噴火口が密集するように存在しており、ボコボコとしたあばた顔のような表面をしています。
月の火山というと妙な感じはしますが、最新の研究では20億3000万年前に噴出したと考えられる火山岩の一部がみつかっています。
一方コンプトン・ベルコビッチにある複合火山が形成されたのはもっと古く、今から35億年ほど前と考えられており、死火山となってから長い年月が経過しています。
しかしこの複合火山地域は近年、別の要因によって注目を集めています。
今から20年ほど前に行われた観測により、コンプトン・ベルコビッチには周囲よりも遥かに高濃度のトリウムが深さ数メートルにわたって堆積していることが明らかになったからです。
トリウムは原子番号90番の放射性元素であり、140億年という非常に長い半減期を持つことが知られています。
これまでの研究により、月の表側にもいくつかトリウムなど放射性元素が蓄積されている部分は確認されていましたが、コンプトン・ベルコビッチほど高い放射線を発している地域は他になく、その理由も明らかではありませんでした。
つまりこの巨大な複合火山地帯は月の中でも有数のイレギュラー地域だったのです。
そこで今回、南メソジスト大学の研究者たちは中国の月面周回衛星「嫦娥(じょうが)1号と2号」、およびNASAの月探査機から得られたデータを利用し、コンプトン・ベルコビッチに対する詳細な分析を行いました。
今回の調査では通常の赤外線だけでなくマイクロ波も観測されており、加えて重力測定も行われており、コンプトン・ベルコビッチの地下構造も解明することが可能になっています。
すると、驚くべきことにコンプトン・ベルコビッチの熱量は月で類似した地理条件の他地域と比べて20倍も高く、周囲と比べても温度が10℃も高くなっていました。
さらにマイクロ波と重力を使った観測では、地下には全長50kmにも及ぶ巨大な発熱体が存在していることが示されました。
この結果は、表面に見えているコンプトン・ベルコビッチは氷山の一角にすぎず、発熱体の本体は地下に存在することを示します。
データを分析したジーグラー氏は「実を言うと、それを見つけたときは少し当惑した」と述べています。
月の火山活動は20億年前には既に終了してあらゆる火山は死火山となっており、地球のように溶けて流れているマグマは熱源にはなりえないからです。
そこでジーグラー氏の妻でもある地球科学者エコノモス博士に相談し、異常な熱源の正体を一緒に解明することにしました。