日本の落語家とは一味違う「フランス人落語パフォーマ―」へ
──そこから大学で日本語を学び続けていったシリルさんですが、落語との出会いは何だったのでしょうか。
落語の存在を初めて知ったのは、パリの大学に通っていた頃です。当時の私は言語学や日本近代文学を専攻。小説家の二葉亭四迷の研究をしていた時に、よく資料に落語のことが書かれていて、ずっと気になっていました。
その後は、在日フランス大使館付属文化センター「アンスティチュ・フランセ」に入職し働いていた時に上方落語の師匠と出会いました。その方に「ちょっと落語を教えてもらえませんか?」と頼んでみたら、「いいよ」と快諾してもらえました。そして、東京で仕事をしながら1カ月に1回、日帰りで大阪の師匠の元に通う生活を1年間続けました。
ようやく1つのネタを覚えて師匠と一緒に落語公演を主催。高座へ上がる楽しさを覚えて、次第に自分1人でツアーを開催するようになりました。日本の伝統的な落語をそのまま自分がやっても日本の落語家に敵うわけがない。だったら「フランス人落語パフォーマー」として自分にしかできない伝え方で落語をやろうと決めました。
海外公演で落語を披露するシリルさん。その国の特色に合わせてネタにアレンジを加えているという
──フランス語、日本語、英語で世界に落語を発信していますが、文化も違う国で公演をする時に、何か心掛けていることはありますか?
日本では、やっぱりフランスっぽいものが求められるのでアレンジを施しています。
たとえば、古典落語の演目の1つ「まんじゅうこわい」をやるときは、「マカロン怖い」にするとか。フランスでは逆に日本らしさを前面に出しています。今はONIGIRI(おにぎり)やBENTO(弁当)など、日本の食べ物の文化がフランスで浸透しているので、落語を楽しむ土台ができてきていると感じます。
落語には酔っ払いや夫婦喧嘩など、どの国にもある些細な日常のテーマがたくさんあるので、そこは万国共通だと思います。ただ、フランス人はブラックユーモア、ちょっとシリアスな笑いが好きなのに対して、日本の笑いは傷つけないで優しく笑いを取る。この違いが、とても新鮮だと思います。
落語の世界に出てくる「ちょっと哀れな感じ、でも愛嬌がある」という日本の笑いは、これから世界で広がっていく可能性があると思います。
インタビュイープロフィール
Cyril Coppini シリル・コピーニさん
フランス南部ニース出身。フランス国立東洋言語文化研究所で言語学・日本近代文学の修士号を取得。1997年に在日フランス大使館付属文化センター「アンスティチュ・フランセ」に入職。落語パフォーマ―としては2011年から活動を開始し、国内外で落語の公演を行っている。現在では、人気漫画のフランス語翻訳も多く手掛ける。