むしろ酸素濃度が低いほうが進化に都合が良かった

なぜ酸素がないにもかかわらず、多細胞生物の進化が起きたのか?

研究者たちは「酸素濃度が低いことが多細胞生物の進化に役立った」と述べています。

これまでの研究で、多細胞動物の体の元となる幹細胞は、ゆっくりと持続的に成長するために、周囲の酸素濃度を低く維持しなければならないことが知られています。

酸素濃度が多すぎると細胞が成長し続け、激しい突然変異によって死んでしまうからです。

またこの時期の生物の中には既に酸素の利用をはじめている者たちもいましたが、初期の多細胞生物はあまり酸素を使うのが上手くありませんでした。

つまり当時の多細胞生物にとって、酸素濃度が高すぎるよりも、ほとんど無いほうが都合がよく、進化にもプラスに働いていたのです。

実際、近年になって行われた酵母菌を使った人工進化実験では、単細胞の古細菌を多細胞生物に進化させるにあたり、酸素濃度の低い環境のほうが進化速度が速かったことが示されています。

3千世代かけて「単細胞だった酵母菌」を多細胞生物へ進化させることに成功!

研究者たちは、現在の多細胞生物の幹細胞に低酸素が重要なのも、古代の性質を引き継いでいるからかもしれないと述べています。

エディアカラ生物群は柔らかく、遅く、弱かった
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最後にアヴァロンの爆発によって生まれたエディアカラ生物群の悲しい結末について解説したいと思います。

先に述べた通り、エディアカラ生物群のエネルギー源は海底のネバネバした微生物マットであり、捕食者のいない平和な世界を築いていました。

そのためエディアカラ生物群の多くは柔らかい体を持ち、運動性も極めて微弱でした。

しかしエディアカラ生物群が繁栄するにつれて海底の微生物マットは食いつくされ、食料危機が起きます。

すると一部の動物たちは「他者を食べる」という選択肢をとりはじめ、多細胞動物の世界に喰う食われるの関係が発生しました。

カンブリア紀になるとアノマノカリスのような巨大な肉食動物も誕生します。

しかしエディアカラ生物群は捕食者たちに対して無力でした。

彼らには身を守るための硬い体も、捕食者から逃げるための俊敏な筋肉もなかったからです。

結果、エディアカラ生物群の多くは狩り尽くされ、絶滅してしまいました。

生物たちは故郷の楽園を狩場にすることで、新たな時代に生き残ったのです。

参考文献
Life on Earth didn’t arise as described in textbooks

元論文
Widespread seafloor anoxia during generation of the Ediacaran Shuram carbon isotope excursion