【対談連載】ソフトクリエイトホールディングス 代表取締役社長 林 宗治(下)
構成・文/清水沙矢香
撮影/大星直輝
2024. 7.11/東京都渋谷区のソフトクリエイトホールディングスにて
週刊BCN 2024年8月12日付 vol.2025掲載
【渋谷発】2006年、父の後を継ぎ32歳の若さで社長に就任したソフトクリエイトホールディングス林宗治社長。就任直後からの道のりは一筋縄ではいかなかったが、その経験からさまざまな気づきを得て、経営者としての心構え、決断の仕方を自分の中につくり上げてきた。その考え方には意外なものもあった。また、今後のソフトクリエイトの経営方針だけでなく、業界全体が将来のためにすべきこと、業界での人材確保・教育のあり方など、経営について幅広い見識を語ってもらった。
(本紙主幹・奥田芳恵)
決めるのは自分だ、と最初に示すことの重要性
芳恵 経営にあたって大事にしておられることについて伺います。経営者として物事の判断は重要ですが、その際に揺るぎのない軸というのはあるのでしょうか?
林 昔から軸があったとは言えないんですが、やっていくうちに学んだことはあります。僕が社長になってから、古参のメンバーがバタバタと辞めていくという“事件”がありました。その時に、組織を形づくるにあたって、まわりの意見を聞いてみんなで決めていこう、ということをやってみました。でも結果的には失敗だった。なぜかというと、みんなで決めようってなると、いろんな意見がまぶされてしまうので、結局は誰も満足しないからです。そんな経緯があって以降、自分は決断することに専念して、みんなの意見をまとめるとか、まぶす、ということをやめたんです。中途半端なものはつくらないことにしました。
芳恵 なるほど、そうですか。しかし出てくる意見っていうのは、皆さんの思い、ということもありますよね。
林 そうです。だから、まず聞く。聞いた上で、決断するのは自分だという方向にしました。
芳恵 それができるようになるのは簡単なことではないですよね。時間はかかりましたか?
林 けっこう時間がかかって……。それができるようになったのは7、8年前かな。
芳恵 いまの考えに至るまでには葛藤もあったのでは?
林 そうですね。当初は社内調整をしながらの社長だったので。
芳恵 組織っていうのはさまざまな意見を持った人たちの集合体ですものね。
林 でも、全員の意見を聞いた上で自分が決める、という姿勢を事前に示しておくことはとても大事だと思っています。
芳恵 とはいえ迷うこともあるのでは? そんな時はどうしているのですか。
林 やり直しがきくかどうか、を考えます。やり直しがきくことはすぐに決めます。スピードを大事にしていますので。やり直しがきかない話の場合はしっかりフレームワークに基づいて、どんな根拠で決断をしたのかを後で検証できるようにしておくんです。失敗した時に、何が間違っていたのかがわかりますから。
芳恵 そうすると次につながりますからね。スピードは重要視しておられるとうかがいましたが。
林 そうです。“Speed&Change”をわが社のスローガンに掲げています。その分、逃げ足も速いですよ。やめる決断もさっさとやります。あと、自分の社長在任中に決算をどう飾って見せていくかといったことではなくて、長期的に見て今後プラスになるかどうかを社長自身で決めることができるという強みがあります。創業ファミリー企業の良さというのはここにあると思います。
人の長所しか見ない姿勢を
マネジャー層にも徹底
芳恵 自分の両腕となるような人物に求めていることはありますか?
林 うーん、うちはみんな個性が強いからなあ……。でも、人の長所しか見ない、不得意なことはやらせない、ということですかね。
芳恵 それぞれの強みを見極めてそれを伸ばす、ということでしょうか。
林 うーん、もともと僕がそういうふうに生きてきた、っていうのがあるんです。人の短所に目が行く人生って、日々怒りしかなくなっちゃうんですよ。怒りと悲しみだけの人生になっちゃう。オールマイティに優れた才能をもっている人がいればいいですけど、そんな人なんていないんですよ。そのことは社員にも伝えてあります。
芳恵 それで足りない部分が出てきた時はどうしますか。
林 不得手なことをやらせるよりは、外から探してくるほうがいいんじゃないですかね。
芳恵 社員の教育には時間をかけておられるほうですか?
林 そうですねぇ、今これだけの人数になってきたので、中間管理職がどうやってマネジメントしていくかが重要になっています。中間管理職に対して社長が持っているフィロソフィーを伝えること。自分はこういうことを考えて日々やってるんだ、ということを部下にきちんと伝えられるように育成しています。社長自身のプライベートなことについても社員に知ってもらうようにしています。
芳恵 それは社長と社員や上司と部下の距離を縮めるためでしょうか?
林 というよりは、自分の頭の中のことを知ってもらいたいという思いですね。先ほど話したこのチタン製タンブラーもその一例です。このタンブラーは技術の塊がデザインとしても洗練されていて美しさもあるというところが僕は好きなんですけど、自分はこんな理由でこういうものが好きなんだっていうフィロソフィー、自分は何を大事にしているか、何に感動するかということが伝わっていくと、それがソフトクリエイトという会社がつくるサービスのあり方にも反映されていくんじゃなかろうかと期待しているんです。「あ、社長はたぶんこれが好きだよな」って社員がわかってくれると、稟議だとか相談なんかもしやすくなりますしね。
芳恵 結果として全体のスピードアップにもつながりますね。
林 そうですね。