「お金の価値」は社会的信用からシフトする!
平成を振り返ると、テクノロジーの進歩とともに、お金の在り方や使い方が変化してきた。同時に、私たちのお金に対する価値観も変わってきたのではないだろうか。金融業界の第一線で平成という時代を生きてきた松本大氏は、これらの変化をどう捉えているのだろうか。平成で起こった私たちを取り巻くお金の変化を振り返りつつ、令和以降のお金の未来についてお話をうかがった。
いつの時代も変わらないお金が持つ3つの価値
平成を振り返ると、電子マネーやオンライン決済の普及、仮想通貨の登場など、お金をめぐる環境はずいぶんと様変わりした。
個人投資家を対象としたインターネット証券を立ち上げ、平成の金融業界を大きく変えてきた一人である松本氏は、30年間の変化をどう振り返るのか。
「クラウドファンディングや仮想通貨の登場など、金融界の最前線で、お金を集める仕組みやテクノロジーの変化を肌で感じ取ってきました。
ただ、激しい変化にさらされたことによって、かえって『いつの時代も変わらないお金が持つ本質的な価値』が明確になってきたような気がします。
お金の本質的な価値、それは『信頼』『価値』『想い』です。色には赤、青、緑の3原色があるように、お金にも3つの要素があると考えています。
『信頼』は、お金を持っていることが地位や生活力を証明する社会的信用につながるということです。
例えば、アメリカの大学に留学するには、現地で生活できるだけの資金を持っているかどうかを審査するために、残高証明書の提出が求められます。
『価値』はわかりやすいですね。働く人が提供する労働力と、それに見合った対価を交換するように、価値の媒介として貨幣が機能しています。
そして『想い』。つまり、誰かのために使うお金のことです。例えば、困っている人を助けるために行なう寄付などは、想いを持ってお金を使う好例と言えるでしょう」
100万円よりも100万人のフォロワー
お金が「信頼」「価値」「想い」の3要素で成り立っていることは、いつの時代も変わらない。
ただし松本氏は、「時代によって、そのグラデーションやバランスには変化が生じる」と話す。
「お金は社会的信用を示す側面が強かったのですが、今ではお金だけが信頼を得る手段ではなくなっています。
例えば、東京在住の人が、福岡に旅行に出かけたとします。『これからおいしいものをたくさん食べたい』と思っても、もしどこかで財布を落としたら、この時点でアウトでした。
でも今は、もしこの人がSNSをやっていて、フォロワー数が多かったとしたら、状況は変わってきます。
『福岡に来たけど、財布を落としてしまいました。どこかで食べさせてくれるところはありませんか』と呟けば、『今日の夕飯をおごるから、19時に○○のお店においでよ』と返してくれる人が現れるかもしれません。
SNSで信頼関係を築くことが可能になり、100万円のお金を持つ人よりも、100万人のフォロワーがいる人のほうが、力を持ち得る時代なのです。『信頼』を示すのは、お金の専売特許ではなくなってきました」
「悪人には使えないお金」が実現する?
一方で、クラウドファンディングや仮想通貨の登場によって、「想い」が果たす役割が強くなってきた。
「クラウドファンディングとは、『こんな社会を実現したい』とか『こんな商品を世に出したい』といった想いを持つ人々が、インターネット上で出資を募り、共感した人がお金を出し合う仕組みです。
出資者はお金儲けではなく、彼らのプロジェクトを応援するためにお金を出します。『想い』を軸にお金がやりとりされています」
また、仮想通貨によって、「想い」をプログラミングできるようにもなった。
「例えば、ある人がアフリカの貧しい国に住む子供を飢餓から救うために寄付したとしましょう。これまでは、その国の政府にお金を渡しても、医療費や食費ではない費用に充てられるか、あるいは誰かのポケットマネーになるといったことがしばしば起きていました。
しかし仮想通貨ならば、ブロックチェーンの技術によって、そのお金を使う人や使い道を限定できるのです。
これまで、お金は誰にとっても良くも悪くも平等な存在でした。お金それ自体は無色透明な存在だったからです。
でも、これからは、悪人には使用できなくても、善人には使えるお金といった具合に、自由にデザインすることもできます。お金に色をつけることができるようになるのです。
仮想通貨は、現時点で投機の対象としてみなされがちですが、それは一面に過ぎません。もっと様々な可能性を秘めているのです」
もし1億円あったら?イメトレしてみよう
お金が持つ3要素のグラデーションやバランスが変わっていくならば、私たちのお金に対する価値観も変わっていくはずではないだろうか。
「少なくとも、『信頼』がお金の専売特許でなくなりつつあるので、お金があればあるほど幸せだという価値観はなくなっていくでしょうね。
行動経済学者のダニエル・カーネマンたちが、年収と幸福感についての研究をしています。最初のうちは収入が増えるにつれて幸福感も増していきます。
しかし、年収が7万5000ドルに達すると、それ以上年収が増えたとしても、幸福感は頭打ちになるそうです。
そもそも、人はお金を得たときではなく、使うときにこそ幸福感を感じるものではないでしょうか。お金は使って初めて意味を持つものですから」
ただ、有意義なお金の使い方をしたいのなら、訓練が必要だと松本氏は指摘する。
「日本では、お金をどう使うかといった教育や議論がなされないからでしょうか。お金の使い方を知らないからとりあえず貯金しておく。ボーナスが入っても、つまらない買い物をしてしまう人が多いように感じます。お金を使う選択肢が限られているのです。
本来ならば、中学生や高校生のときから、もし1億円あったら、何に使うかを生徒自身に考えさせるイメージトレーニングをすべきです。
ある生徒は『寄付をする』と言うかもしれませんし、『起業する』なんて発言する生徒も出てくるかもしれません。中には、『そんな使い方があったのか!』といった発想も出てくるかもしれません。
こうしたトレーニングの積み重ねが、お金を使う発想力を育んでいきます。お金を使うバリエーションが広がれば広がるほど、それだけ自分にとって満足のいくお金の使い方がわかってきます。
つまり、自分なりのお金に対する価値観が醸成されていくのです。とはいえ、大人になってからでも遅くはありません。自分が幸せを感じるお金の使い方を知ることは、人生100年時代を生きる私たちにとって、とても大切なことです」
ネットワークを広げ、人生のリスクに備える
長寿化によって、今まで以上に人生設計を慎重に考えなければならなくなった。こうした時代に、今後どう資産を形成していけばいいのだろうか。
「お金の在り方が変わったとはいえ、これからは『ネットワークさえあれば、お金がなくても生きていける』とはまだ言い難い。
むしろ、寿命が延びていくにしたがって、老後の資金が途中で底をついてしまうのではないかという不安を、多くの人が抱えています。
仕事をリタイアすると、お金を稼ぐのは難しくなります。そこで重要なのは、今のうちから正しい資産運用をしておくこと。
例えば、アメリカの巨大銀行が発行する満期5年の劣後債を買えば、3~4%の年利を確保できます。
劣後債といっても、巨大銀行が5年後に破産する心配はまずありませんから、ローリスクで安定した運用が可能になり、長生きリスクを減らしていくことができます。
ただし、『お金さえあれば安心』というわけではありません。会社や仕事以外に広いネットワークを持っている人ほど、健康寿命が長いという研究結果も発表されています。
そうした人的ネットワークがあれば、病気をしたときにはよいお医者さんを、トラブルが起きたときにはよい法律家を友人から紹介してもらえるようになります。
老後の資金が不安になったときには、『それならうちの家が空いているから、安く貸すよ』と声をかけてくれる人が現れるかもしれません。
正しい運用によってお金を確保しつつ、ネットワークを広げる努力を40代のうちから始めることが大切です。
意識的に取り組んでいる人と、そうでない人とでは、10年後に大きな差が広がっていくことになります」
文・松本大(まつもと・おおき)
マネックスグループ㈱代表執行役社長
1963年、埼玉県生まれ。87年、東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。94年、30歳で同社最年少ゼネラル・パートナーに就任。99年、ソニー〔株〕との共同出資でマネックス証券〔株〕を設立。2015年11月より現職。現在、事業持株会社であり、個人向けを中心とするオンライン証券子会社を日本・米国・香港に有するグローバルなオンライン金融グループであるマネックスグループ〔株〕およびマネックス証券〔株〕両社のCEOを務める。《取材構成:長谷川敦写真撮影:まるやゆういち》(『THE21オンライン』2019年06月13日 公開)
提供元・THE21オンライン
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