全体の流れをまとめると「ポリコーム複合体がヒストンのH3K27部位をメチル化して遺伝子の機能を抑制している状態(初期状態)➔SDG7がヒストンのH3K27部位のメチル化を阻害➔SDG7がポリコーム複合体を排除➔SDG7がヒストンのH3K36のメチル化➔SDG8による遺伝子活性化➔開花促進」となります。

つまりポリコーム複合体に対してメチル化の制御を行うだけで、抑制されていた遺伝子が解放されるわけです。

このようなDNAの塩基配列を書き換えずにメチル基を使って遺伝子活性を制御する仕組みのことを「エピジェネティクス」と呼びます。

研究者たちはある意味で「ヒストンの2つの部位(H3K27とH3K36)が特定の遺伝子の発現を動的にオン・オフできるスイッチにもなっている」とし「シンプルでエレガントな拮抗分子スイッチが植物のエピジェネティックな再プログラミングにとって最適である」と述べています。

また研究者たちは、この仕組みを応用すればDNAの操作では実現が困難だとされてきた開花時期の可逆的なコントロールが可能になると述べています。

もしかしたら未来の世界では、季節を問わず満開の桜がみられる場所が作られ、観光スポットとして人気を博しているかもしれません。

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参考文献

花を咲かせる遺伝子の働きを切り替える仕組みを解明 促進する化学修飾を導入して活性化~開花時期の操作や食料増産に期待~
https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=2806

元論文

Arabidopsis SDG proteins mediate Polycomb removal and transcription-coupled H3K36 methylation for gene activation
https://doi.org/10.7554/eLife.100905.1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。