ビックカメラのECサイトが、1個の買い物でも送料無料となり、注目を浴びている。これまでは税込み2000円以上の買い物をした場合に限り送料が無料となっていたが、金額制限が撤廃されたかたちだ。燃料費の高騰や「物流の2024年問題」もあり、物流コストが上がっているなか、世の中の潮流に逆らうような施策の背景には何があるのか。専門家に分析してもらった。

 ヤマダデンキに次ぐ家電量販店業界2位のビックカメラが運営するECサイト「ビックカメラ・ドットコム」は、9月2日から送料を無料とした。これまでは税込み2000円以上の買い物をした場合が送料無料の対象だったが、1個の買い物でも、金額も関係なくなった。 なお、一部対象外のケースがあるとしている。

 アマゾンや楽天市場など、ECサイトで買い物をする消費者は増えている。2023年8月に経済産業省が発表した「令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書」を見ると、2022年の日本国内の消費者向け電子商取引市場規模は13兆9997億円で、前年比5.37%増。EC化率は前年比0.35ポイント増の9.13%で、ネットで買い物をする消費者が着実に増えていることがわかる。

 ネット上で買い物をする人が増える一方、商品を運ぶ物流事情は深刻さを増している。今年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力の不足が懸念されてきた。ガソリン価格も全国平均で160円台後半から170円ほどで高止まりし、人件費の高騰とともに物流コストは大きいままだ。企業にしてみれば、ネット販売で売上を伸ばしても、消費者から送料を取らなければ利益を圧迫しかねない。

ビックカメラ・ドットコムが送料無料を打ち出したワケ

 そんななかでビックカメラ・ドットコムが、あえて送料無料を打ち出した背景には何があるのか。ECに特化した日本初のシンクタンク、株式会社デジタルコマース総合研究所代表取締役でECアナリストの本谷知彦氏に聞いた。

――ビックカメラはなぜ今、送料無料を打ち出したのでしょうか。

「まずECに消費者が求めるものは、『品揃え』『安さ』『送料無料』の3つに集約されます。配送コストが上がっているのは確かですが、事業者ごとに多少、事情が異なります。たとえば、アマゾンは大半が自社物流です。私が調べたところでは、その割合は7割くらいです。物流コストを安定的に抑えているので、プライム会員は送料無料を実現できています。楽天市場は3980円(税込み)以上で送料無料を維持しています。アマゾン、楽天市場、Yahoo!ショッピング、ZOZOTOWN、auPAYマーケット、Qoo10の6つのECモールは、国内EC市場の約4分の3を占めます。政府が制限をかけているので、送料を完全無料とはいかないまでも、これらの大ECモールは送料においてもアドバンテージがあります。

 ビックカメラ・ドットコムとしては、そんなECモールに追随していかざるを得ない事情があると思います。さらに、ビックカメラ・ドットコムは、ヨドバシ・ドット・コムをベンチマークとしているはずですが、ヨドバシは今や“総合小売業”となり、アマゾンや楽天を追っているような状況です。そうすると、ビックカメラとしてもヨドバシ同様に総合小売業化し、送料を無料にするとともに配送スピードも上げていく必要に迫られているといえます」(本谷氏)

――物流事情を鑑みると、むしろ配送料は上がっているなかでの無料化となり、厳しい状況になるのではないでしょうか。

「送料を消費者に転嫁していくというスタンスを貫く方法もあると思いますが、ECモールに追随していくヨドバシがライバルであることを考えると、消費者の関心を引くためには、送料を無料にせざるを得ないでしょう」(同)