日常ユースで話題のスタイリッシュ・ピックアップを検証
2024年2月に発売されたトライトンは6月初旬の時点で、2500台超を受注したという。2006年に導入された先々代モデルの日本での売れ行きはあまり芳しくなかったが、新型は予想以上の人気を博している。
唯一の競合車となるハイラックスが年間1万台超のペースで売れているのに対し、トライトンの月販目標は200台と控えめ。いまのところ計画を軽々と達成している。
ピックアップは、海外では頻繁に見かけるものの、日本では特殊な部類に属する。仕事用ではなく遊び用にトライトンを選んだユーザーの大半は、荷台がほしいというより「容姿に惹かれた」と予想している。今回は日常生活で使うとどうかという視点でチェックしてみた。
サイズの大きなダブルキャブのピックアップゆえ、まずは取り回し性が心配になる。ボディサイズは5360×1930×1815mm。全幅と全高はそれほどでもない。ただし全長は5.3mを超え、ホイールベースは3mオーバー、最小回転半径は6.2mもある。そしてリアオーバーハングも長い。これだけ後軸より後ろが長いと、日常的に慣れ親しんでいるクルマとはだいぶ軌跡が違う。まずはそのあたりの感覚を把握しておく必要がある。
大きさを感じるのは、狭い駐車場に止めるときだ。切り返しに苦労するし、これだけリアオーバーハングが長いと、駐車場によっては輪留めまで下げると、壁や後方車両に当たってしまう可能性もある。サイズの問題でスペース的に駐車できないケースもあるだろう。ただしトライトンは前後モニターに加え360度ビュー機能を標準装備する。この機能を使うとサイズのデメリットはほぼ感じない。安心して駐車でき、狭い場所にも踏み込める。
通常時の運転のしやすさは上々だ。全長は長いが見切りはよく、どこまでが車体なのかを把握しやすい。高めの視線から周囲を見下ろす格好になるので気分もいい。ただし左側ドアミラーとAピラーの付け根の死角はやや大きい。左折時には気をつけたほうがよい。
荷台は広々としていてかなりの大物が積める。最大積載量は500kgである。荷室カバーもハードタイプやソフトタイプ、高価だが電動開閉式などが用意されている。雨の心配がいらないカーゴボックスの配置など、自分の用途に応じて荷台をカスタマイズするのはピックアップの楽しみのひとつである。
インテリアは、外観とのバランスやクルマのキャラクターをふまえて、あえて武骨さを表現したという。各部の質感は高い。小物収納は「これだけあれば不便に感じることはない」というレベルで充実している。
5名乗りの室内は実用的。後席のスペースは広い。ひざ前のクリアランスはたっぷりあり、背もたれの角度も適度に寝ていて座るとしっくりくる。後席に空調吹き出し口はないが、ルーフにはリアサーキュレーターがある。後席は荷物の置き場としても便利である。
乗降性はフロアが高いのでいまひとつ。サイドステップはあるもののひと手間かかる。だがこれもピックアップの魅力のひとつ。特別なクルマに乗るという感覚が味わえる。
ラダーフレームを感じさせない操縦性と快適性。2.4リッターディーゼルは素晴らしい
すでにオフロードコースと郊外路で試乗して、ラダーフレームでも「ここまでできる」実力に驚いたが、改めて日常的なシーンで乗っても、その印象は変わらなかった。
乗用車ベースのクロスオーバーSUVと同等というわけにはいかないが、かつてラダーフレーム車では当たり前だった「ガツガツと来てワナワナと震える」感覚はほとんど払拭されている。
新たに採用した電動パワーステアリングも効いて、切り始めから応答遅れなく回頭し、素直に動いてくれる。この点も、従来のラダーフレーム車とは一線を画している。軽快なハンドリングの実現には、ランサー・エボリューションなどで培われた三菱ならではのAYC(アクティブヨーコントロール)の技術も効いているに違いない。
感心したのがエンジンだ。2.4リッターターボ(204ps/470Nm)は2ステージターボチャージャーも効いて全域でリニアなレスポンスと力強い吹き上がりを実現した。
オフロードで乗った際に、過給機付きでも繊細に車速がコントロールできることに感心したが、その特徴は一般道でもそのまま当てはまる。いたって乗りやすくパワフルだ。1500rpmより上を積極的に使う設定になっていて、6速ATが適宜シフトダウンして効率がよく、力感のある回転域を巧く保つようになっている。
少々気になった点は、アイドリングストップ後の再始動での音と振動だ。これなら常時カットしておいたほうがいいかもしれない。
トライトンは1ナンバー登録の商用車である。それゆえ高速料金が高くなる。海外では優遇される貨物車が、日本では反対の扱いになる。路面への影響が少ない軽荷重のモデルだけでも、ぜひ制度の見直しを進めてほしい。