「100万円も…あのとき追納しておけば…」
学生のときに未納だった年金を追納しないと、将来の年金が100万近く減るリスクがあることをご存知でしょうか。
今回は、追納しなかった場合に年金がいったいいくら減ってしまうのか、解説します。年金を増やす方法についても紹介しましょう。
年金には「学生納付特例」というルールがある
年金には「学生納付特例」といって、学生の間は保険料の支払いを猶予=支払期限を延期してくれるというルールがあります。ただし、社会人になってから後払いするのが前提の制度です。
学生納付特例を利用しているあいだは、「受給資格期間(将来の年金を受け取るために必要な加入期間)」としてカウントされますが、「将来の年金額」としてはカウントされません。
しばらく支払いを待ってもらっている状態なのに、そのまま支払わずに放置すると、きちんと支払った場合に比べて将来受け取れる年金の額が少なくなってしまいます。
追納で未納による年金の減額は防げる、リミットは「10年」
年金に未納分があっても、追納により将来の年金が減額されるのを防ぐことができます。ただし、納付期限は10年以内です。
学生納付特例を利用していた場合など、支払っていなかった期間の保険料をさかのぼって支払いましょう。支払っていなかった期間の穴埋めができて年金が増えるのはもちろん、追納した保険料は全額が「社会保険料控除」の対象になるため、納めた年の所得税や住民税が安くなるというメリットもあります。
1点注意したいのが追納できるのは「10年以内」 という決まりがあり、それより前の分については対応していないことです。ちなみに、学生納付特例の手続きをせずに保険料を支払っていなかったら「未納」として扱われるため、納付期限から2年以内の分しか支払えません。
追納しないともらえる年金はいくら減る?
学生納付特例を使ったものの、猶予された2年分の保険料を追納しないと、もらえる年金は100万円以上減ってしまうこともありえます。
計算式を用いて解説しましょう。なお、老齢基礎年金の満額は2024年度の年金額である毎月6万8,000円(年間81万6,000円)として計算します。まず、未納となってしまった2年分に相当する基礎年金額は次の通りです。
81万6,000円×24ヵ月/480ヵ月=4万800円
つまり、年間約4万円ももらえる年金が減ってしまうのです。65歳から90歳までの25年間と仮定した場合、合計の減額分は102万円(=4万800円×25年)です。
逆に追納すると、もらえる年金額は増えます。
65歳で年金を受け取り始めるとして、おおむね76歳以降まで長生きすれば、支払った保険料よりももらえる年金の方が多くなる計算です。
ちなみに、所得400万円の人が約40万円の年金保険料を納付すると、その年の所得税が最大8万円ほど安くなります。つまり、約32万円の実質負担で将来の年金が年額4万円UPすることになります。この例だと受け取り開始から約8年で元が取れますね。
収入が高い人ほど所得税の税率が高く設定されているため、控除による節税効果が大きくなりやすいです。社会人になって特に収入が増えた年に追納するのがおすすめです。
10年以内に追納できない場合は?
前述した通り、保険料を納めていない期間があったとしても、最大10年であればさかのぼって追納できます。しかし、体調を崩して働けなかったなどの理由で10年以内の追納ができないことも珍しくありません。
このような場合は「任意加入制度」を使いましょう。これは、60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たせなかった、納付済み期間が40年に満たないなどの理由で老齢基礎年金を満額受給できない人に向けた制度です。
以下の4つの条件を満たしている人が対象となります。
● 日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の人
● 老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない人
● 20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満の人
● 厚生年金保険、共済組合等に加入していない人
なお、年金の受給資格期間を満たしていない場合は、65歳以上70歳未満でも任意加入が可能です。条件に当てはまるかは、最寄りの市区町村役場か年金事務所に問い合わせてみましょう。
余裕ができたら追納がおすすめ
学生時代の年金保険料を支払っていない場合、将来の国民年金が満額受け取れなくなってしまいます。しかし未納なら2年以内、学生納付特例などの手続きをしていた場合は10年以内であれば追納が可能です。金銭的に余裕が出てきた時点で未納分の保険料をさかのぼって支払ってはいかがでしょうか。
文・荒井美亜(金融ライター/ファイナンシャル・プランナー)
立教大学大学院経済学研究科を修了(会計学修士)。税理士事務所、一般企業等の経理を経験して現在は金融マネー系ライターとして活動中。日本FP協会の消費者向けイベントにも講師として登壇経験あり。
(2024年06月12日公開記事)