広大な海の闇には、時折、人知を超えた異界の存在が現れることがある。海の男たちが語る怪異の数々は、ただの偶然や錯覚に過ぎないのだろうか。霊感を持っていた航海士H氏が遭遇した恐怖の体験、海上で繰り広げられる心霊現象の真相とは──。ここに2019年9月の記事を再掲する。

いわくつきの船、自殺した同僚の声、笑う女の顔が…!! 元航海士が語った“海上の怪異”
(画像=イメージ画像 Created with DALL·E、『TOCANA』より 引用)

 古来より水場と霊の関係は枚挙にいとまがない。その闇と深さは文字通り、海のように果てしない。調査を進める中、ある航海士の話を聞くことができた。普段は陽気な海の男・H氏が目撃した海上の怪異、そして同僚の自殺。彼の耳に残る「一緒に行こう」の意味とは… ――宗教・オカルトの専門家・神ノ國ヲが報告!

――霊感はありますか?

H氏:いまはもう感じることはないのですが、30歳頃まで「霊感」のようなものがありました。視界の端に何か見えたり、後ろに気配を感じたり。学生のとき、バイト先の雑貨屋で「いつも後ろに誰か居る気がするんですよねぇ」って店長に話したら、「だからそこにいつも造花を置いてあるでしょ」と。あと、親父の葬儀でね、夢を見たんですよ。親父が「一緒に行こか」って。これは夢の中だ、何とか目を覚まさなくちゃ……と思うんです。でも、夢の中で金縛りに合っていて、いつのまにか呻いていたんでしょうね。母親が気付いて、私を起こしてくれて、事無きを得ました。

――海ではどんな心霊経験をされましたか?

H氏:世間には出ない話ですけど、いわく付きの船ってあるんですよ。建造時点で人死が出たり。着任当時から「この船は絶対出るからね、操舵機室には気をつけてよ」とか言われることも。あと同じ船で、なぜか階段を下りていく、ひどく長い黒髪の白いブラウスの女がいるんですよ。皆、誰だろうと降りていくんだけど追いつけない。見える人に言わせれば「いや、追いついちゃダメなものですよ、アレは」と。

H氏:あと、旅客船の航海士をしていたことがあるんですが、年に1、2回は客で飛んじゃう人がいる。船乗りの間ではよく見聞ききする話ですけどね。乗った人数と降りた人数が合わなくて、やっぱり荷物が残っててね。引っ張られちゃうのかな。わからないですけど。

 一度、深夜の勤務中に奇妙なものを見ました。レーダーには何も写っていないのに、遠くに何かあるのが目視できる。船の操舵中ですからね。当たると大事ですし。何なんだと、じっと目を凝らしてみる。

 すると何か白い影のようなものが遠くから近づいて来ているんですよ。あっ、これは見たらダメだ……と思いつつも目を離せない。どんどん近付いてくる。よく見ると、何か白い女の顔がニヤァと笑っている。背筋が凍りましたよ。これ以上近くなると、あと数メートルというところに来てしまう。慌てて、目を瞑って、うろ覚えの御経を唱えました。しばらくすると気配は消えていました。あれは何だったんでしょうね…。

いわくつきの船、自殺した同僚の声、笑う女の顔が…!! 元航海士が語った“海上の怪異”
(画像=Pete LinforthによるPixabayからの画像、『TOCANA』より 引用)

――もう一つの経験について教えてください。

H氏:実は同僚Aさんが自殺したんです。彼は、私が船に乗り始めた頃から、すでに一等航海士でした。真面目な性格で、きちんと制服を着こなし、知識も豊富で秀才肌の人でした。でも、そのせいかもしれません。うつ病を患ってしまい、一年ほど休職していたんです。しかし、復職した彼と再び仕事をすることになりました。以前と変わりなく職務をこなす彼には病の影はありませんでした。  ある休日、別の仲間が退職することになり送別会を開きました。当然、自殺した同僚Aさんも来ていました。あまり酒を飲む印象もない同僚が、なぜかその日だけは異様にテンションが高く、珍しく二次会にも参加していました。

 翌日、さあ再び仕事だ、と乗船したのですが、Aさんが出てこない。「あぁ、さては飲み過ぎの二日酔い、遅刻かな」と思いました。しかし、彼は自宅で自殺していた。会社と警察からの連絡が来たとき、本当に驚きました。昨日、あんなに皆と楽しく過ごしたのに……。全乗組員にとって、大きな衝撃であり、深い悲しみでした。

 でも世の中は非情なもので、船の運航を止めるわけにはいかない。運航要員は足りていたんですが、急遽、Aさんの当直シフトに、私が入ることになったんです。当然、船内には重く悲痛な空気が漂っています。そのせいか、皆、つとめて彼の話題には触れずに黙々と職務をこなす。

――船員悲話ですね……。そして何が……?

H氏:深夜になり、当直ですから、淡々とレーダーを観測していました。すると、なにか隣に気配がする。ふと視界の端に、操作盤に寄りかかる手と袖口が見えた。同僚Aさんがいつもきちんと着こなしていた制服の腕の部分である、一等航海士の袖章、3本の金モールが見えたんです。不思議と恐怖は感じませんでした。「あぁ最後に当直しに来たんだなぁ」と思い、静かに心のなかで彼の冥福を祈り、黙祷を捧げました。

 翌朝、当直も終わり、コーヒーを飲みながら別の船員に昨晩の話を伝えました。「Aさん当直に来たよ」、すると同僚は驚いて「えっ? 俺もAさんが夢に出てきました」と言うんです。二人とも本当に驚きましたよ。でもね、詳しく聞くと怖くなってきました。どうやら同僚の夢にAさんが出てきて「一緒に行こうよ」と笑顔で誘ってきたらしい。同僚は驚いて飛び起きた。時計を見ると午前二時頃。実は、私が操作盤でAさんの腕を見たのも同じ頃だったんです。私がいたのは操舵室ですよ……。Aさんは、一体、船をどこへ向かわせようとしていたのでしょうか……。

 取材後、H氏は、大きな海難事故に遭うも奇跡的に助かった。無論、事故とAさん目撃の関係は不明である。しかし、以後、H氏が「霊」を感じることはなくなり、いまは転職して別の仕事をしているという。

※当記事は2019年の記事を再編集して掲載しています。

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提供元・TOCANA

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