古代イスラエルで悪魔を使役し、魔術師として名を馳せたソロモン王が、多くの神から授かったとされる魔法文書『アルス・ ノトリア』。“名高き術”とも呼ばれ、主に超能力の身につけ方が記されており、一説には大天使ミカエルが稲妻とともにソロモン王に授けたともいわれている。

■異彩を放つ魔術書『アルス・ノトリア』

 この世のものではない力と知識を求めようとする人々のため、“魔術書”と呼ばれる類の本は中世後期から19世紀のヨーロッパで数え切れないほど多く執筆されて世に出回っている。

 これらの内容を迷信や真っ赤な嘘と現代の我々が一笑に付すのは簡単だろう。しかし昔の人々は古代の言葉や様式であればあるほど魔力が高く、本を読む人たちに多大なる影響を与えると固く信じていたのである。

 オリジナルではないが、世界有数の魔術書として大英博物館にも現在保管されている『ソロモンの小さな鍵』に“名高き術”である『アルス・ノトリア』は収められている。

『アルス・ノトリア』は護符や呪具の作成方法などを記した、5部構成からなる専門的な内容となっており、原本は12~13世紀頃にまで遡るとされ、ヘブライ語、ギリシア語、ラテン語を含む3つの異なる文章から構成されていたといわれている。多数の魔術書が存在する中でもこの書は聖なる儀式やまじない、薬についても記されている部分があり、ひときわ異彩を放っている。

ソロモン王が大天使ミカエルから授かった魔術実用書『アルス・ノトリア』とは? 読破した人間は超能力が身につく!?
(画像=『アルス・ノトリア』(1657年) 「Ancient Origins」の記事より ,『TOCANA』より 引用)

 また『アルス・ノトリア』の興味深い点のひとつは、イラストなどで具体例が示されていることだ。多くの人々の注意をひいた例では「磁気実験」の解説があり、天然磁石と2本の針を用いて長距離間通信を可能にする方法が描かれておりなかなか興味深い。英知を身につけた賢者はアルファベット文字で環をつくり、その中央に置いた2本の磁針でそれぞれの文字を指し示すことによって、距離がある場所でも情報交換が可能になるのだという。

ソロモン王が大天使ミカエルから授かった魔術実用書『アルス・ノトリア』とは? 読破した人間は超能力が身につく!?
(画像=2本の針による長距離通信の解説「Ancient Origins」の記事より ,『TOCANA』より 引用)

■焚書にされた『聖処女マリアの幻視の書』

『アルス・ノトリア』でもっとも古くに書かれたとされる部分を読破し、実践する者は日々行われる幻視、瞑想、祈りの言葉によって、幾何学、計算、哲学をはじめとする人文科学を身につけることができたり、能弁さや鋭敏な感覚、知恵、完璧な記憶力を授かることができたとされた。だが、中世に多数の写本が流通してからは効果が極端に減少したともいわれているようである。

 14世紀にはモリニーの修道士ヨハネスによって『アルス・ノトリア』の改訂版というべき書物『聖処女マリアの幻視の書』が作られたが、超俗的かつ悪魔的要素が強い異端の書物としてパリで焼却処分されたことが記録に残っている。禁書になるまで出版された『聖処女マリアの幻視の書』は非常に高価だったというが、人智を超えた“存在”に魅せられた人々はなけなしの金をはたいて買い求めたということだ。

 17~18世紀頃には訳されて民衆的な書物になっていったが、現代でも仏語で「わけのわからない書物」「判読不能な文字」の比喩で用いられるこれら魔術書だが、起源も内容も多くが謎に包まれたままである。この遠い昔のミステリアスな魔術書を完全読破して力を得られる者がいつか現れるだろうか。

(文=Maria Rosa.S)

参考:「Ancient Origins」、ほか

※当記事は2016年の記事を再編集して掲載しています。

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提供元・TOCANA

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