世界中でさまざまなUMA(※1)との遭遇事例が報告されているが、アメリカ・イリノイ州エンフィールドで報告された『エンフィールド・ホラー(エンフィールドの怪物)』は、最も奇妙なUMAのひとつであると言っても過言ではないだろう。
1973年4月25日の寒い夜、グレッグ・ギャレットという少年が自宅の裏庭で遊んでいたところ、奇妙な獣に襲われたと言い出したのだ。その生き物には「3本以上の足」があり、灰色がかったぬるぬるした肌、短い爪、赤みがかった目をしていたという。さらにその生き物は複数の足でグレッグの足を踏みつけ、テニスシューズをズタズタに引き裂いたという。混乱したグレッグはその場から逃げ出して家に戻った。だが、それからわずか30分後にガレット家の隣人であるヘンリー・マクダニエル氏とその家族が「怪物」の襲撃に遭っていたのである。
夜9時半頃、マクダニエル夫妻が家に帰ると、ヘンリー・ジュニアとリルという二人の子供が恐怖のあまり茫然としていた。子供たちに話を聞いてみると、両親が留守の間に「何か」がドアと窓に取り付けられたエアコンから家に侵入しようとしたのだそう。子供たちが両親に説明していたまさにそのとき、玄関のドアを「ひっかく」音がした。
半信半疑だったマグダニエル氏は、迷い込んだ動物だろうと思い、ドアを開けた。だが、彼の目の前にいたのはグレッグ君も目撃した赤い目の怪物だったのである。至近距離で怪物と対面したマクダニエル氏の心境はいかばかりか。彼はすぐにドアを閉め、近くのクローゼットから懐中電灯と22口径ピストルを取り出した。家族は恐怖で心底怯えていたため、マグダニエル氏は思いきってドアを開け放った。そして、先ほど目の当たりにした怪物が幻覚等ではなかったと知ったのである。 マグダニエル氏が目撃した怪物は次の通り。
「脚が3本あって、胴体は短く、胸のあたりから小さな短い腕が2本出ていて、懐中電灯のように光る大きなピンク色の目が2つあった。背丈は4.5フィートで、灰色がかった色をしていた……家の中に入ろうとしていたんだ」
マクダニエル氏は目の前の怪物に発砲し、即座に命中させた。しかし怪物はダメージを受けた様子もなく、彼に向かって「山猫のように」威嚇の鳴き声を上げただけだった。困惑したマグダニエル氏は立て続けに発砲、至近距離だっまため4発の銃弾を命中させたという。また、マグダニエル氏は狩りが得意で獲物を銃で仕留める事に長けていた。
「最初の一発を撃ったとき、間違いなくあれに命中したんだ」とマグダニエル氏は証言するが、怪物の様子は変わらず、わずか3回の跳躍で約15mを駆け抜け、彼の家の前を通るL&N鉄道の堤防沿いの茂みに姿を消した。
マクダニエル夫妻はすぐに地元当局に通報。イリノイ州の警察官が現場に到着したときには、マクダニエル氏の家のサイディングにひっかき傷がいくつもあり、庭には犬のような足跡が残されていた。しかし足跡は非常に奇妙で、足の指の付け根が6つあり、どうも証言通り3本足があるように思えたという。なお、うち1つの足跡は他の足跡よりわずかに小さかった。
それから暫くの間は何も起こらなかったが、5月5日深夜、マクダニエル氏は真夜中に響いた近所の犬の遠吠えに驚いて目を覚ました。まだ『怪物』の記憶も残っているマクダニエル氏は、嫌な予感を覚えてベッドから起き上がると、再び銃器を取り出して恐る恐る玄関のドアを開けた。幸い今回はドアの前に怪物が立っていた……ということはなかったが、自宅近くの線路の高架をあの生物がのんびりと進んでいく様子を見たという。
「それは急ぐ様子もなく、線路を下っていきました。だから私も撃ちませんでした」とマクダニエル氏は語っている。 さて、「民家を訪れた3本足の怪物」が現れたともなるとメディアが放っておくはずがない。この怪奇現象を嗅ぎつけたマスコミが大挙して押し寄せてくるのにそう時間はかからなかったが、熱狂が加速したのはマクダニエル氏が2度目の目撃を報告をした後だった。この地域には本物の怪物が潜んでいるのだと考えた報道陣や野次馬が大挙してこの町に押し寄せた。地元の人たちの間に不安が広がっていたこともあり、ホワイト郡の保安官ロイ・ポシャード・ジュニア氏はマクダニエル氏に、パニックを煽るのを止めるよう厳重注意した。
しかし人々の熱気は止まず、武装したアマチュアのハンターたちがL&N線路の目撃情報付近をパトロールするようになった。その結果、5人の若いハンターが同じ生き物に遭遇。彼らも怪物を仕留めようとしたものの弾丸は怪物に致命傷を与えることができず、怪物は人知を超えたスピードで走り去ったという。 怪物の最後の目撃者は、インディアナ州ココモのラジオ局WWKIのニュース・ディレクター、リック・レインボー氏だった。彼と連れの3人は、マクダニエル氏らの家からそう遠くない廃屋の外に、灰色の、前かがみになった、身長5フィートの怪物が潜んでいるのを目撃。しかも怪物の不穏な叫び声をテープに録音することに成功したのである。
また、当時著名な暗号動物学者であるローレン・コールマン氏も現地を訪れ、目撃者の証言と録音された鳴き声を調査。コールマン氏自身も目撃現場を捜索中に、怪物のものらしき不穏な叫び声を耳にしている。「私はエンフィールドに行き、目撃者に話を聞き、怪物が傷つけた家のサイディングを見ていた時にバンシーのような奇妙な金切り声を聞き、当惑しました」とコールマン氏は振り返る。
『Fate』誌1974年7月号で、ローレン・コールマン氏とジェローム・クラーク氏は、”Swamp Slobs Invade Illinois “と題した記事で『エンフィールド・ホラー』に関する特集記事を出した。コールマン氏は有名な超常現象調査官であるジョン・A・キール氏とエンフィールドの怪物事件について話し合ったことを、彼の著書『Mothman and Other Curious Encounters』の中で紹介している。 数年後、コールマン氏はこれまたアメリカで有名なヒューマノイド型UMAであるドーバー・デーモンの調査を行い、過去に行ったエンフィールドの怪物の事例と対比させ「エンフィールド・ホラーはドーバー・デーモンとはだいぶ違っていて、カンガルーとデビルモンキー、ハニースワンプ・モンスターを合わせたような存在だった」と述べている。
地域を脅かしたエンフィールド・ホラーだが、その正体については現在でも謎となっている。何せ足が3本という既存の生物にはあり得ない身体的構造を、目撃した人々がことごとく証言しているのだ。そのため、この怪物は同時期にこの地域を悩ませたとされるUFO目撃事件と関連している(つまりエイリアンである可能性が高い)という意見や、人間に対して攻撃的で家に侵入しようとする傾向があることから、古典的な “悪魔”の特徴をすべて備えているという意見も存在している。 また一方で、逃げ出したカンガルー説も存在している。実は事件が話題になった当時、付近に住む男性が「その怪物は自分の飼っていたペットのカンガルーではないか」と名乗りを上げたのだ。現在では到底不可能だが、当時はまだ動物の輸入や飼育に関する規制もかなり緩かったようだ。確かに男性の言う通り、怪物の正体がカンガルーであったならば、高いジャンプ力や3本足という目撃証言にも説明がつく。カンガルーの太い尾はもう1本足があるように見える可能性が考えられるためだ。しかし怪物の凶暴性などはカンガルーとは違うという意見もある。 結局、エンフィールド・ホラーはこの騒動以降ぱったりと姿を現さなくなってしまった。しかし変わった外見と戸口に現れるなどの行動から、アメリカ国内ではキャラクター化もされかなり親しまれているクリーチャーでもある。
エンフィールド・ホラーの正体が何であろうとなかろうと、目撃証言はもはや40年近く報告されていない。しかし、未だに謎めいた生物が広野のどこかに潜んでいて、夜更けに家のドアを引っ掻きに戻って来ないとは限らないのだ。
(※1) UMA(ユーマ、Unindentified Mysterious Animal)とは未確認生物を意味する和製英語。未確認生物とは何世紀にもわたって語り継がれてきた物語や伝説に登場したり、また、今日でも目撃例があるが実在が確認されていない生物のことだとされている。
参考:「Cryptidz」 【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】
文=加藤史紀(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
提供元・TOCANA
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