データサイエンティストの人材需要

 田中氏によると、データサイエンティストという職種がクローズアップされるようになったのは2010年代のアメリカだったという。

「Google(グーグル)のチーフエコノミストが2009年、『これからの10年で最もセクシーな職業になる』と言って、話題になりました」(田中氏)

 セクシーとは魅力的なという意味。人材の奪い合いになり、スカウトの際に提示される報酬として高額な数字が飛び交うような次世代の花形職種になっているという話は、SNSを通じて日本にもリアルタイムに伝わった。

 今、AIテクノロジーの飛躍的な向上により、データサイエンティストの将来の人材不足が指摘されている。もっとも、実際の業務で通用するような高度なスキルを持つデータサイエンティストを短期間で大量に育成するのは困難という見方もあれば、データサイエンティストの需要自体がそれほど高まらないのではないかという見方もある。将来、その需要は本当に大きく伸びるのだろうか。

「一人で最新の情報科学に通じ、ビジネスの課題の理解でも、実装、運用のエンジニアリングでも、ビジネス上の問題解決でもハイレベルなスキルを持つ、まるでスーパーマンのようなデータサイエンティストを求めるのは現実的ではなく、現在は企業もスキルを細分化して考えるようになっている。当初、2010年代には一人で何でもできる人材がイメージされたようですが、そんな人はいないので、現在は全体を薄く知りつつ『3つのスキル領域』のどこか一つに強い人を集めて、チームとして課題解決に取り組めればいい、となっているようです」

 単純化していえば、アメリカが『スーパーマン』のように一人で問題を全て解決してくれるヒーローを求めるとするなら、日本は『七人の侍(Magnificent 7)』のように、各分野のエキスパートを集めてチームで問題を解決しようとする。そんな日米の文化の違いは、「アメリカではデータサイエンティストに提示される年俸は日本円換算で最低でも1000万円台だが、日本では平均年俸500万円前後」という報酬のデータとも符合する。それを田中氏は「物価の違いもありますが、働き方の違い、企業文化の違いも大きいと思いますね」と指摘する。

 日本企業では今、データサイエンティストも含めてDX人材の奪い合いが起きているが、その一方で、企業が講習会やオンライン学習により自前でデータサイエンティストを育成しようという動きも活発化している。経験者をスカウトできればそれに越したことはないが、現有の人材を長時間かけてじっくり育成しチーム化してもいい、ということだろう。なお、平均年収がたとえアメリカの半分の500万円でも、少なくとも若くしてハイレベルの報酬が約束される職種である、ということはできる。