ところで、ムルソーがアラブ人を殺害した動機を説明する場面は、非常に象徴的だ。彼は、自分の行動に合理的な理由を見出そうとせず、外部の環境や偶然の出来事に動機を求める。これは、カミュが「不条理」という概念を探求する上での重要な要素であり、人間が世界の中で感じる疎外感や孤独感を象徴しているといわれる。

ムルソーは犯行動機について質問された際、「太陽のせいだ」と言ったわけではないが、彼が太陽の影響を受けてアラブ人を撃ったことが強調されている。科学的データは、暑さが攻撃性を増加させることを示しているが、このメカニズムはムルソーの行動にも反映されている。彼が太陽の強烈な光の下で殺人を犯す場面は、暑さによって感覚が鈍くなり、正常な判断力を失った結果として解釈できる。

ムルソーは、アラブ人を撃つ前に、太陽が彼の額に汗をにじませ、目を痛めつけ、耐え難い暑さと眩しさの中で感覚が麻痺していく様子を語っている。そして、彼は引き金を引く衝動を説明する際に、太陽の照りつけが決定的な役割を果たしたことを示しているのだ。

気温の上昇が精神疾患のリスクを高め、攻撃性を増加させる可能性があるというOGPPの科学的データは、ムルソーの行動の背景にある心理的メカニズムを現実の文脈で裏付けている。極端な暑さが精神状態に与える影響について、カミュの文学的描写と現代の医学的研究は共通の見解を示しているわけだ。

「異邦人」における太陽は、ムルソーにとって外的な圧力や疎外感の象徴であるが、同時に現実の気温上昇による精神的圧迫とも解釈できる。太陽が彼の理性を奪い、感情を麻痺させたように、現代の科学は極端な暑さが理性を超える攻撃性を誘発することを実証してきているのだ。

ムルソーだけではない。欧州では理由なき殺人事件や殺傷事件が増えてきている。路上で突然ナイフを振り回し、多くの人々を襲撃するという事件がドイツでもオーストリアでも起きている。ウィーン市10区当局は外出時のナイフ携帯禁止を決定している。異常気象は無数のムルソーを生み出してきている。気候変動と「精神疾患と犯罪の増加」は不気味な関係を見せてきている。