このロシア・ウクライナ戦争にまつわるキャンセル・カルチャーで明白にウクライナが失敗したのが、サヘル諸国でのワグネル対応だ。ロシアを憎むあまり、ワグネルが掃討作戦の対象にしている反政府側を支援していることを、認めてしまった。これに当事国のマリだけでなく、ニジェール、ブルキナファソが反発し、安全保障理事会に議題提起を要請する、という事態にまで至っている。

BBCの記者は、抱擁に関する質問をしたとき、文化のことを聞いたのではなかっただろう。欧米では悪魔とみなされて不可触の扱いとなっているプーチン大統領と抱擁することの政治的意味について、どう思っているのか、と聞きたかったのだろう。

したがってジャイシャンカル外相が、「あなた方の文化ではなくても、われわれの文化だ」と主張したとき、念頭に置いていたのは、単なる抱擁の仕草のことだけではなかったと思われる。外相として余計な解説までは加えなかった。しかし欧米諸国に吹き荒れるキャンセル・カルチャーを揶揄する含意があった、と受け止めてよいだろうことは、含意としては明白だったと感じる。

なおウクライナがインドとの関係悪化を露呈させなくてよくなったのは朗報であり、重要なことだが、インドがイスラム圏の国ではないことは、留意しておかなければならない。日本では「グローバル・サウス」概念の十把一絡げな怪しい使用法により、インドが「グローバル・サウスのリーダー」のように簡単に述べてしまう人物が多いが、間違いである。

インドは、21世紀の超大国として、重要である。しかしインドとの関係維持は、イスラム圏諸国との関係改善には、必ずしもつながらない。ウクライナは、イスラム圏諸国との関係発展では、ロシアに後れを取っている。そこを改善したいのであれば、さらにいっそうの別の努力が必要である。