幅広い業界で人手不足が叫ばれるなか、特に深刻とされるIT業界。優秀な人材の争奪戦に伴い「賃上げ競争」の様相を呈しているが、気になるのが個別のIT企業ごとの平均年収だ。そこで、ブログ「Publickey」が公開した、上場IT企業の平均年収ランキングから、どの企業が高年収なのかをみていこう。

 IT業界では給料の上昇トレンドが続いている。三菱UFJ銀行が2022年度から高度なIT知識を持つ大学新卒に対しては年給与1000万円となる可能性もある給与体系を発表しニュースとなったが、サイバーエージェントは23年春の新卒入社の初任給を42万円に引き上げ。GMOインターネットグループは23年春入社から一部の専門人材について初任給を年収710万円(月額換算で約59万円)に引き上げ。ディー・エヌ・エー(DeNA)は17年から「エンジニア職AIスペシャリストコース」などで新卒エンジニアの年俸を600~1000万円としている。

 こうした動きは中堅IT企業にも波及。レバレジーズは昨年9月、25年卒の新卒採用より初任給をこれまでの28万円から35万円へ25%も引き上げ。固定賞与と業績連動賞与を合わせた初年度年収は500万円を超える。ドリーム・アーツは昨年は25万円だった新卒初任給(月収)を36万円に引き上げ、年収は350万円から504万円にアップする。

 転職・求人サイト「doda」が公開したITエンジニアの平均年収は452万円(2023年12月時点)。2022年9月~23年8月の1年間に「dodaエージェントサービス」に登録した20歳から65歳までの人の平均年収データを集計したもの。全職種合計の414万円より38万円高く、2年前より14万円の上昇となっている。年収分布をみてみると、300~400万円未満がもっとも多く全体の30.6%で、次いで400~500万円未満が24.0%、300万円未満が13.9%、500~600万円未満が13.3%。1000万円以上は2.5%。また、年代別平均年収としては50代以上がもっとも高い717万円で、年代が下るにつれて下がり、20代は380万円となっている。

「ボリュームとしては中小規模のシステム開発企業やSES企業、ウェブサービス企業などで働いている人が多く、そうした会社のエンジニアの給与はそれほど高くはない。一方、近年の需要の高まりを受けてAIエンジニアやデータサイエンティストなど一部の高度スキル人材の給与が高騰しており、それに引っ張られるかたちで平均年収がじわりと上がっている面もある。もちろん他の業界同様に各社が人材獲得のために給与を引き上げていることも大きな要因だ。また、50代以上がもっとも高いのは、経験豊富なプロジェクトマネージャーの給与は高くなる傾向があるためだろう」(中堅IT企業役員)

 Publickeyは2024年度版の上場IT企業の平均年収ランキングを発表している。公表されている有価証券報告書に基づくもので、持ち株会社や日本で上場していない企業は含まれていない。

※以下ランキングは、ブログ「Publickey」の7月9日付記事『IT系上場企業の平均年収を業種別にみてみた 2024年版[前編] ~ ネットベンチャー、ゲーム、メディア系』『IT系上場企業の平均年収を業種別にみてみた 2024年版[後編] ~ パッケージソフトウェア系、SI/システム開発系、クラウド/キャリア系企業』より、同サイト運営元の許諾を得た上で引用。

ネットベンチャー系

 1位はメルカリで1034万円、2位はクックパッドで890万円、4位の楽天グループ(795万円)を抑えて3位になったのは中古車などのオークションサイトを運営するオークネット(825万円)だ。このほか、「価格.com」を運営するカカクコムは705万円、マネーフォワードは666万円となっている。

※会社名、従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年収(万円)

メルカリ 1315 35.6 3.4 1034
クックパッド 134 35.8 5.4 890
オークネット 291 40.5 12.2 825
楽天グループ 10350 34.4 5.1 795
デジタルガレージ 528 38.5 5.2 792
フィックスターズ 243 36.4 5.9 791
モイ 40 34.5 5.8 776
エニグモ 129 36 4.8 710
カカクコム 1130 36.3 5.8 705
マネーフォワード 1473 33.6 2.4 666
プライム・ストラテジー 22 43.8 4.8 649
ウォンテッドリー 102 30.6 2.4 648
LIFULL 664 36.8 7.8 638
駅探 78 41.8 6.8 624
レアジョブ 52 38.8 5.4 623
ネットイヤーグループ 189 38.9 6.7 617
はてな 193 34.4 4.4 616
オウケイウェイヴ 28 39.2 9.5 613
ログリー 42 34.3 5.3 575
グローバルウェイ 124 39 2.8 560
クラウドワークス 331 32.7 2.4 560
Eストアー 102 34.6 5.8 557
ぐるなび 735 40.3 9.6 555
マクロミル 1179 33.2 5.6 522
オークファン 105 34.2 3.6 507
メンバーズ 2806 29.7 3.7 482

ゲーム/エンターテイメント系
 1位は任天堂で963万円、2位はディー・エヌ・エーで854万円、3位はカプコンで833万円。

任天堂 2814 40.2 13.9 963
ディー・エヌ・エー 1397 37.6 5.6 854
カプコン 3186 37.8 11.1 833
グリー 363 38.2 6.3 811
MIXI 1245 36.7 5.2 746
ドリコム 276 37.1 5.7 719
ネクソン 266 38.1 6.7 685
コロプラ 718 35.4 5.4 661
KLab 489 37 7 623
カヤック 270 35 6.1 616
enish 119 36.7 5.4 583
日本ファルコム 65 38.8 14 566
gumi 446 35.4 4.3 558
UUUM 626 31.8 3.16 545
カバー 537 33 2.1 526
ザッパラス 49 38.8 6.9 522
ANYCOLOR 323 30.4 1.9 510
Aiming 742 33.2 3.9 430
AppBank 36 32 3.7 422
サイバーステップ 324 33.2 5.9 399
日本一ソフトウェア 100 35.12 7.54 350

オンラインメディア系企業
 2位はGunosyで700万円、3位は弁護士ドットコムで680万円。ちなみに1位のKADOKAWAはサイバー攻撃を受けた影響で今年の有価証券報告書の提出期限を延長しているため、以下の数値は昨年の値。

KADOKAWA(参考値) 1998 41.9 3.1 857
Gunosy 155 33.5 3.3 700
弁護士ドットコム 497 35.5 3 680
アイティメディア 317 38.9 7.7 662
GameWith 124 32.2 3.4 633
イード 126 40.7 10.6 627
メドピア 210 34.9 2.9 616
オールアバウト 126 36.6 6.2 554
まぐまぐ 22 37.5 3.9 516
パピレス 112 34.4 6.3 516

アフィリエイト/SEO
アドウェイズ 542 34.1 5 624
インタースペース 272 35.9 7.5 617
バリューコマース 279 37.3 7 590
GMO TECH 187 32 2.9 566
ファンコミュニケーションズ 412 33.4 5.7 530
アウンコンサルティング 35 35.6 7.5 440

パッケージソフトウェア/サービス系企業
 1位は日本語入力システム「ATOK」や通信教育「スマイルゼミ」などのジャストシステムで1428万円、2位は日本オラクルで1127万円、3位に東京証券取引所グロース市場へ新規上場したABEJAで888万円。Publickeyを運営する新野淳一氏はいう。

「ジャストシステムの平均給与が飛び抜けています。ジャストシステムは一太郎やATOKなどの製品でよく知られていますが、これらの製品の勢いは一時期ほどではなく、なぜここまで平均給与が高いのか疑問に思う方も多いと思います。しかし現在の同社のビジネスの柱は小中学生向けの教育ソフトやサービスであり、その成功が平均給与の高さに反映されています。よく知っているはずの企業にも、多くの人の知らない側面があることがわかります」

ジャストシステム 296 38.9 13.7 1428
日本オラクル 2398 44.3 9.1 1127
ABEJA 103 36.1 2.4 888
トレンドマイクロ 868 40.4 8.3 883
トヨクモ 57 32.1 3 852
アステリア 102 42.1 8.7 845
HENNGE 278 34.9 4.6 790
ソースネクスト 123 39 8.6 775
オービックビジネスコンサルタント 941 35.1 11.8 766
セゾンテクノロジー 714 43 13.4 742
ピー・シー・エー 488 40.5 14.6 710
NTTデータイントラマート 295 35.2 5.6 682
Chatwork 394 35.18 2.6 671
サイボウズ 1003 35.3 5.7 664
ドリーム・アーツ 230 36.2 8.4 644
アドバンスト・メディア 224 37.5 7.4 622
ユーザーローカル 93 28.7 4.1 595
rakumo 57 37.4 5.2 577
ネオジャパン 152 35.9 8.5 558
ビーブレイクシステムズ 141 32.1 7 523
スマレジ 262 34.5 2.5 506

SIer/システム開発系企業
 1位は海外売上比率も伸びつつある野村総合研究所で1272万円、2位は電通総研で1134万円、3位はオービックで1078万円、4位は富士通で965万円と大手SIerが上位に並ぶ。

野村総合研究所 7206 40.2 14.3 1272
電通総研 2039 40.6 11.6 1134
オービック 1898 36.1 13.2 1078
富士通 35924 43.6 18.8 965
大塚商会 7713 41.7 17.4 937
日鉄ソリューションズ 3758 39.9 12.6 886
日本電気 22210 43.3 17.5 880
BIPROGY 4424 46.4 21 850
ネットワンシステムズ 2285 40.1 9.8 830
TIS 5834 40.5 14.5 803
テクマトリックス 553 38 8.3 801
ビジネスエンジニアリング 537 40.7 11.2 785
BeeX 166 40.4 3 773
SCSK 8611 43.5 18 764
SBテクノロジー 1004 38.3 7.6 755
アイティフォー 494 41.2 12.1 707
サーバーワークス 261 37 3.3 695
さくらケーシーエス 948 44.8 21 679
ラック 1698 40.6 12 667
ソリトンシステムズ 626 42.7 12.7 650
SHIFT 4396 37 2 644
テラスカイ 581 35.8 4 628
東計電算 821 39.6 14.1 593

組み込み開発系企業
ACCESS 299 40.2 9.3 766
ユビキタスAI 75 48 10.7 707
セック 347 38.8 13.1 662
コア 1018 40.5 15.7 632
エヌアイデイ 1044 39.1 14.9 567
ソーバル 743 37 11.9 566

ホスティング/クラウド/通信キャリア系企業
 1位のソラコム(1116万円)は今年3月に上場したKDDI子会社で、IoT通信を手掛ける。2位はKDDIで987万円、3位はソフトバンクで811万円。

ソラコム 101 41 3.6 1116
KDDI 9409 42.2 16.7 987
ソフトバンク 18889 41.3 14.1 811
SBテクノロジー 1004 38.3 7.6 756
インターネットイニシアティブ 2680 37.6 9.2 738
GMOインターネットグループ 737 36.1 6.4 677
GMOペパボ 340 35.4 6.5 651
ブロードバンドタワー 154 40 9.9 644
フリービット 261 40.2 6.7 633
さくらインターネット 677 39.5 7.7 614
GMOグローバルサイン・ホールディングス 370 39.6 7.7 597
ASJ 56 39.7 13.9 528
朝日ネット 200 40.2 9.3 499

業種ごとの平均年収や平均年齢などの傾向にも注目
 前出・新野氏はいう。

「IT業界とひとくちに言っても、例えばメルカリのように自社開発のコンシューマ向けサービスを展開している企業や日本オラクルのように外資系かつ企業向けの製品を提供している企業、富士通や日本電気のようにシステムインテグレーションを主なビジネスとしている企業など、さまざまな業種があります。それらの業種ごとの平均年収や平均年齢などの傾向を見ていくと興味深いのではないかと思います。

 IT系企業にお勤めの読者であれば、このリストの中に似たようなビジネスを展開している企業が見つかるのではないでしょうか。自分の給与あるいは自社の平均給与とその企業の平均給与を比べて、自分の給与はどうなのか考えてみる、自社の平均給与が低いのであれば経営陣に理由を聞いてみることで自分たちの給与増の機会としてみるなどの材料にしていただければ幸いです」

(文=Business Journal編集部、協力=新野淳一/Publickeyブロガー)

提供元・Business Journal

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