ドロンさんはその後も多くの有名な女性と交際したが、再婚はしていない(カトリック教会で再婚は認められていない)。その一人のオーストリアの女優ロミー・シュナイダー(1938~1982年)との関係はよく知られていた。彼女は43歳の若さで病死した。
ルーボ(LOUBO)と呼ばれる犬に対するドロンさんの愛情は非常に深く、ルーボの死後、深い悲しみに陥ったといわれていたほどだ。そのドロンさんは生前、「私が死んだら、ルーボの近くに埋葬してほしい」と述べていたのだ。
ウィーン郊外には欧州最大の墓地、中央墓地がある。そこには「音楽家たちの墓」コーナーがあって、楽聖ベートーヴェンからシューベルト、ブラームス、ヨハン・シュトラウスなど著名な音楽家が一堂に埋葬されている。
「音楽家たちの墓」の中でも最も人気がある墓はベートーヴェンの墓だ。その傍には「歌曲の王」と呼ばれたシューベルト(1797~1828年)の墓がある。シューベルトは31歳の若さで亡くなったが、生前、「私が死んだら、ベートーヴェンの墓の傍に埋めてほしい」という遺言を残していた。シューベルトはベートーヴェンを尊敬していたのだ。
ちなみに、欧州では遺体を埋葬してお墓をたてるといった「埋葬文化」が次第に廃れ、埋葬の代わりに火葬が増えてきている。時代の変遷や文化の多様性もあって、「墓場で埋葬する」といった伝統的な埋葬文化が消滅してきたわけだ(「変わりゆく欧州の「埋葬文化」」2010年10月29日参考)。
いずれにしても、人は「自分が死んだ後も愛していた人の傍にいたい」と願うものだ。シューベルトは敬愛するベートーヴェンの傍に、ドロンさんは愛犬ルーボの傍に、安らぎを得たいと願っていたわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年8月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。