引退後にアイデンティティを失い、鬱症状が現れるリスクが高まることを指摘する心理学者や医師もいる。長年のキャリアで培ったスキルや知識を使わなくなると、認知機能が低下し、結果として早期の認知症発症リスクが上昇することが研究で示されているのだ。

定年退職後、何もせず1日中テレビの番人をしたり、資産運用で成功した一気に巨万の富を得てリタイヤした人がいる。彼らは外出先で店員さんに怒鳴るなど感情のコントロールができなくなったり、アイデンティティの喪失感を埋めるための飲酒習慣が加速するという事例もある。社会とのつながりを失うと一気に老化するのだ。また、これも過去記事で書いたことがあるが、仕事をやめた人が僅かな期間で一気に痴呆症状が噴出してしまった事例を自分は目撃したこともある。

仕事は最強のアンチエイジング

昨今、人生100年時代と言われアンチエイジングが人気だ。脳トレグッズもよく売れている。しかし、計算ドリルや脳トレゲームを頑張るより、仕事を頑張る方が遥かにアンチエイジングに効く。

その状況証拠として、年齢を重ねても若々しさを保ち続ける人々は第一線でビジネスで活躍しているという共通点を持つ。特に男性においては、経営者など裁量を持ってバリバリ仕事をする人は、実年齢以上にとにかく若いという印象がある。

彼らは70代、80代になっても気力に満ち溢れ、健康な体を維持していることが多い。彼らの多くは、自ら仕事を創り出し、挑戦し続けることで、適度なプレッシャーと充実感を感じている。このような環境は、脳を活性化させ、精神的な若さを保つ助けとなる。また、社会とのつながりを維持することが、孤独感を軽減し、長寿の秘訣となっているのだろう。

早期リタイアは一見魅力的に映るかもしれない。しかし、肉体的・精神的なリスクを考慮すると、仕事はできるだけ長く続けた方がいい。また、仕事は一度引退をしてしまうと、キャリアの中断が尾を引くだけでなく心身ともに一気に老けて能力が低下する。そのため、戻りたくてももう二度と仕事に復帰できなくなることも少なくない。安易にリタイヤへの片道切符を買ってはいけないのだ。