ウクライナの電撃的「対ロ越境攻撃」

ついにウクライナはロシアに対して電撃的な「越境攻撃」を開始した。報道によれば、ウクライナは8月6日からロシア西部クルスク州に対し、1万人以上の兵力と戦車部隊やドローン兵器などを投入し、数日間で1000平方キロメートルを制圧した。このため同地域の住民12万人が避難し、6万人が避難準備を余儀なくされている。

このようなウクライナによる大規模な対ロ越境攻撃は初めてのことである。これに対しロシア側の反撃も予想されるが、苦境にあるウクライナによるこの作戦は本年11月に迫る米国大統領選挙を見据えたやむに已まれぬ乾坤一擲「起死回生」の電撃作戦と言えよう。

ゼレンスキー大統領インスタグラムより

「トランプ再選」はウクライナにとって最悪

「アメリカファースト」のトランプ氏が大統領に返り咲けば、ウクライナにとって不利な停戦を強要される公算が大きい。なぜなら、トランプ氏はバイデン政権によるウクライナに対する最大限の武器援助に反対し、早期の停戦を主張しているからである。

この立場は大統領に返り咲いても基本的には変わらないであろう。すなわち、停戦に応じなければ武器援助を停止する可能性もあるからである。

しかし、現状での停戦はウクライナ東部ドネツク州をはじめ国土の20%を占領するロシア側にとって極めて有利であることは否定できない。その意味で、「トランプ再選」はウクライナにとって最悪であると言えよう。

「専守防衛」では国と国民を守れない

今回の対ロ越境攻撃は、日本の国是とされる「専守防衛」だけでは国と国民を守れないことを証明している。

「専守防衛」を超える今回の作戦には以下の狙いがあると考えられる。

ロシア政府に対してウクライナは決して降伏しないことを事実で示す ウクライナには今後も反撃能力や継戦能力が存在することを事実で示す ロシア国民に対し戦争の恐怖と悲惨さを認識させ、戦争継続のプーチン政権に対するロシア国民の批判を高める ロシア政府に対しウクライナ侵略が極めて困難であり成功しないことを事実で示す 米国政府に対しウクライナによる「対ロ越境攻撃」などの「反転攻勢」が今後も可能かつ有効であることを事実で示し武器援助の継続を求める アメリカ大統領選挙を見据え共和党トランプ陣営に対しても更なる武器援助の有効性と必要性があることを事実で示す 今後の停戦交渉で受け入れ可能な立場を築く ウクライナ戦争の結果は「台湾有事」に直結する

「中華民族の偉大な復興」を掲げ、「台湾併合」を目指す中国の習近平政権はウクライナ戦争の行方を注意深く見守っているに違いない。