スーツスタイルをはじめとする仕事着に、強い自己主張は不要だ。足元にスニーカーを選ぶとしても王道のノトーンを選ぶのが最適解なのは間違いない。その一方、せっかく革靴ではなくスニーカーを選ぶのだから、多少の個性やトレンド感をプラスして人と差を付けたいもの。ビジネススタイルの調和を保ちつつ鮮度を高める方法がある。
金融業界にも浸透するスニーカーはもはやオフィスの定番
2016年、アメリカの大手銀行であるJPモルガン・チェースが服装規定を改訂。曜日に関わらずマネージャーの判断によってジーンズやスニーカーの着用も可能になった。もっとも堅い部類の金融業界での服装のカジュアル化は大きな反響を呼んだ。
日本でも昨年は伊藤忠商事が「金曜日は脱スーツ・デー」を打ち出し、ビジネススタイルのカジュアル化は進んでいる。必要以上の品格よりも、快適性や動きやすさを重視したほうが合理的で仕事の効率も上がるからだろう。もっともわかりやすい例はすっかり定着した“クールビズ”。IT系ベンチャー企業はカジュアルな服装がむしろスタンダードだ。
官民連携でスニーカーを使ったビジネススタイルを後押し
スポーツ庁が2018年に始めた「FUN+WALK PROJECT」は、歩きやすい服装で通勤し、歩く機会を増やすことで健康増進を目指すというもの。そして、歩きやすい服装の象徴がスニーカーだ。多くのブランドや百貨店がスニーカーを使った通勤スタイルの実例を提案しているので、今後もますます広がるはずだ。
率直に言うと、タイドアップしたビジネススーツにスニーカーを合わせる服装はスタイリッシュとは言い難い。ただし、スニーカーを通勤時に歩くためのツールと考えれば多少のダサさも許容範囲になる。オフィスに着いたら品の良い革靴に履き替えれば良いだけだ。
カジュアルダウンしたスーツスタイルやノータイのジャケパンスタイルが許される職場や業種であれば、スニーカーはあらゆるシーンで活躍することが許される。もはや“ビジネススタイル+スニーカー”という新しいスタンダードが逆戻りすることはない。市民権を得ている状況を考えれば、すぐにでもビジネス用もしくはビジネス兼用のスニーカーを確保したほうが賢明だ。
使いやすいのはシンプルなモノトーンの王道スニーカー
ビジネススタイルに合わせるスニーカーは基本的にシンプルなデザインでモノトーンの配色が良いとされている。スニーカーというだけでカジュアルな印象なので、デザインやカラーといった要素はできる限り落ち着かせたほうがビジネススタイルになじみやすくなるからだ。
ここで言う“シンプルなデザイン”を噛み砕くと、主にローテク系の王道モデルということになる。世界でもっとも売れたスニーカーとしてギネスブックに登録されている「アディダス」のスタンスミスはその筆頭。ホワイトかブラックのワントーンを選べばどんな着こなしにもなじむ。大人の定番として人気が高い「ニューバランス」は、グレーのスエード素材が支持を集めている。アップル社を創業したスティーブ・ジョブズ氏も愛用していたM992をはじめ、M576、M996、M1300といった人気モデルは必ずグレースエードが展開されている。それだけ人気が高く、汎用性も高いということだ。他のブランドも、シンプルなモノトーンのスニーカーを選べば間違いはない。
新鮮味を演出するならカラーやブランドで差別化を
どうせスニーカーを履くなら適度な遊び心を演出したいという欲も出てくるだろう。そんな上級者は同じ「ニューバランス」でもネイビーを選ぶのがおすすめ。スーツの定番カラーでもあるので、ビジネスシーンに溶け込みやすい。色使いがワントーンでも、歴史があって意外性もあるブランドならビジネススタイルになじみつつ新鮮味もある。具体的には「リーボック」、「オニツカタイガー」、「ディアドラ」あたりが狙い目だ。
ここで注意が必要なのは、高価なブランドを選べば良いわけではないという点。コレクションブランドなどが“ダッドスニーカー”と呼ばれるボリュームのあるスニーカーを提案して人気だが、それはビジネススタイルには合わせないほうが得策。トレンド感のあるスタイリッシュなコーディネートだからこそ野暮ったいダッドスニーカーがスパイスやハズしになるのであって、この場合のダサさはツールとしてのスニーカーの文脈とは異なるからだ。デザインに凝ったハイブランドのスニーカーより、シンプルなスポーツブランドや専業ブランドのスニーカーのほうが伝統と格式を重んじるビジネススタイルには適している。
それでもトレンドや季節感を意識したいなら、秋らしくて上品なベージュがおすすめだ。「ニューバランス」はベージュのスエードも多いので探してみてほしい。また、ボルドーやバーガンディといったワインカラーは落ち着きのある差し色としてビジネススタイルにも合いやすい。スニーカーの王道ブランドである「ナイキ」や「プーマ」でも、ワインカラーを選ぶだけで新鮮に映り、秋らしさが匂い立つ。
文・平 格彦(ファッションエディター、[着こなし工学]提唱者)
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