そんな話を聞くと、私たちも安心して「お刺身」が食べられなくなってしまいそうです。

ところが、実は2011年にドイツの医学雑誌『Hepato-Gastroenterology』に、正露丸でアニサキス症が緩和されたという2つの症例が報告されます。(Sekimoto et al., 2011)

この論文では、「2つのケースで、正露丸を経口摂取したアニサキス症の患者が、数分で強い上腹部痛を鎮静化した」と報告している他、試験管実験(in vitro研究)でも正露丸に曝露したアニサキスの幼虫が活動を抑制させたと報告していました。

ただ、この論文では完全にアニサキスに正露丸が効くことを証明できてはいなかったため、世の中では半信半疑に聞いている人がほとんどで、「ひょっとしたら応急処置にはなるのかもね」、というニュアンスで伝えられるだけでした。

そこで、今回高知大学理工学部の研究グループが、「正露丸がアニサキスを麻痺させているだけなのか、殺虫効果があるのか」という問題を明らかにしようと研究を行ったのです。

正露丸はアニサキスを確かに殺している

これまでの研究では、アニサキスが薬剤処理で動きを停止した場合、1~2日経っても再度動かなければ「死んだ」という曖昧な判定をしていました。

しかし、これでは科学的な証拠とは言いづらいものがあります。

そこで、今回の研究者たは、死んだ組織に反応して青色に染まるというトリパンブルー染色液を使ってアニサキスの生死判定を行う実験をしたのです。

研究では通常服用量の正露丸を溶かした液にアニサキスを30分浸し、活動の停止を確認してからトリパンブルー染色を行いました。

するとアニサキスは濃い青色に染まったのです。

トリパンブルー染色の様子。(A)正露丸処理なしの生きている線虫。(B)正露丸処理の1日後の不動線虫(1錠/ 10mL)
トリパンブルー染色の様子。(A)正露丸処理なしの生きている線虫。(B)正露丸処理の1日後の不動線虫(1錠/ 10mL) / Credit:K. Matsuoka et al.,Open J. Pharmacol. Pharmacothr(2021)